宅地建物取引業法はどのような理由で作られたのか?2. 度重なる業法改正(5)

 

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住み替え住宅の需要が増大しました

 

 

(8) 第8次改正 (昭和55年5月21日法律第56号、 政府提案)

 

ア 住宅需要の構造の変化

昭和40年代後半には

戦後のベビーブーム世代が世帯形成を終了し、

賃貸住宅から分譲住宅、

中古住宅への住み替え需要と職住近接の要請の高まりを背景に

住宅需要の構造の変化が起きました。

 

昭和48年当時、都市部への人口集中、

核家族化による世帯の細分化等に伴い

宅地建物に対する需要は旺盛となり、

中古住宅の流通量は

昭和49年の約20万戸が昭和53年では約30万戸となり

推定年率9%程度の増加が見込まれました。

 

宅建業者数は、

昭和48年3月末には7万8712(個人業者54.2%)、

昭和50年3月末には8万8262(個人業者46.1%)

にまで増加し、

列島改造ブームによる不動産投資熱の高まりにより

全国的に地価が高騰していきました。

 

(建設白書昭和48年版から51年版、日本不動産研究所三十年史30頁)。

 

昭和50年代に入ると、 住宅戸数が世帯数を260万も上回り、

住み替え需要が一層增大し、

中古住宅の流通量が拡大しました。

 

イ 不動産流通市場の整備、近代化の必要

 

昭和55年3月末当時、

宅建業者・・・10万6545(知事免許業者57.9%、個人業者42.1%)

1業者当りの従業者数が5人以下の業者が約83%

 

個人営業的な宅建業者が

中古住宅の売買仲介等を中心とする不動産流通業界を担っていました。

 

さらに、宅建業者は委託者との間で

媒介契約書の締結や報酬の支払の約定もないままに

媒介を受託していました。

 

そしてその仲介業者を排除して直接取引し、

仲介業者から報酬請求され、

媒介の委託関係の存否や

報酬の支払約定の有無を巡る紛争が多発しました。

 

また、物件情報が宅建業者間で共有されず、

取引価格も宅建業者の勘による値付けであって

合理的な価格査定によるものではありませんでした。

 

中古住宅の流通市場が不透明かつ閉鎖的であることは、

宅地建物の流通の円滑化を阻害し、

速やかに適正な価格で売買契約を締結するという

消費者の利益を損なう結果となっていました。

 

不動産流通業界をみると、

中古住宅等の流通量の拡大に伴い、

大手不動産業者が子会社、

系列会社等を設立したりフランチャイズ方式をとる等で

中古住宅の流通分野に積極的に参入し始めました。

 

他方、宅建業者数の大部分を占める中小業者は、

未だ前近代的な業態のまま媒介業務に従事し、

消費者のニーズに十分対応しきれない状況にあり、

大手不動産業者の中古住宅流通市場への参入に危機感を抱いた

中小の不動産業者と大手不動産業者との間に摩擦が生じました。

 

昭和53年8月、 不動産流通を近代化し促進を図る方策として、

 

①共同処理方式一中小企業の協業化等の推進

②情報の均質化と正確性の確保、

③仲介契約制度の改善、

④価格査定方法の適正化、

⑤仲介報酬限度の見直し、

⑥宅建業者及びその従業者の資質の向上を図ること

等の提言がなされました。

 

また、 昭和40年代後半から資産価値の低い原野、

山林等を東京等の大都市居住の顧客を

対象に強引に販売するという

原野商法が出現し多くの被害が出て社会間題化しました。

 

 

「改正内容」

 

① 媒介契約の規制と宅地建物取引業の健全な発達の促進法1条の日的規定に、

「宅地建物取引業の健全な発達を促進すること」を追加し、

売買及び交換の媒介契約の内容の書面化を義務づけました。

 

具体的な施策として、標準媒介契約約款を告示し(昭和57年5月7日建設省告示第1110号)、

財団法人不動産流通近代化センターを設立し (基金は国庫補助10億円、 民間出捐約20億円)、

合理的な値付けを行うための価格査定マニュアルを策定するなど、

宅建業者間で物件情報を広く交換し、

迅速かつ適正な価格での成約を促進するため不動産流通機構を整備しました。

 

② 宅建業者の不公正な取引の排除

自己の所有に属しない宅地建物の売買契約締結の制限、

クーリング・ オフ制度の新設

 

③ 業務規制の強化

a)免許基準の厳格化

(免許の取消処分の聴聞の公示後に廃業等の届出をした者の排除、

免許の再取得禁止期間を3年から5年間に延長等)、

名義貸しの禁止規定の拡大

 

b)宅地建物取引主任者制度の改善

(専任の取引主任者の増員、登録基準の強化、

宅地建物取引主任者証の提示義務、

宅地建物取引主任者の法定講習の受講義務)

c)誇大広告等の禁止対象の拡大

d)取引態様の明示義務の拡大

e)重要事項説明の対象事項の追加等

④ 取引保証の充実

営業保証金の額の引き上げ

⑤ 監督権限及び罰則の強化

 

[苦情処理体制の整備]

昭和59年4月12目、宅地建物取引に関する

苦情・紛争の適正迅速な処理を図るため、

財団法人不動産適正取引推進機構が設立されました。

 

(9) 第9次改正 (昭和61年12月26日法律第109号、 政府提案)

宅地建物取引主任者資格試験の実施について、

昭和63年度以降の試験は、

財団法人不動産適正取引推進機構が実施することとなりました。

 

 

参考文献:国立国会図書館三訂版「逐条解説」宅地建物取引業法より

 

 

 

筆者:大脇和彦プロフィール

愛媛県松山市生まれ
マンションデベロッパー、会計事務所を歴して独立
不動産コンサルティングとエージェント業務が主体。近年は太陽光発電所開発運営も
趣味は、土地巡り・街巡り・山巡りを兼ねたドライブ(得意笑)、筋トレ(昔はオタク)
好きなこと言葉・・・積小為大、虚心坦懐