不動産仲介業務の現状と課題 1. なぜ不動産仲介に紛争が多いのか

 

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1.なぜ不動産仲介に紛争が多いのか

 

不動産仲介業務は、

ときに「クレーム産業」、「トラブル産業」と揶揄されるほど紛争が多いです。

 

不動産取引にまつわる紛争は、

消費者の取引物件に対する主観的な不満から

数十億円もの損害に発展するものまで、

その内容や規模も様々ですが、紛争の原因は以下に収斂されます。

 

ア 取引事情の個別性

不動産取引は、他の財産取引に比べて、

その権利関係占有状態が複雑です。

 

取引対象も宅地、山林、農地、新築住宅・中古住宅、事業用物件・収益物件、

マンション分譲・宅地分譲、完成物件の売買・未完成物件の売買 (青田売り)等、多岐にわたります。

さらに、取引手順も大変複雑です。

 

他方で、契約に対する意識の乏しい消費者は、

不動産取引の知識や経験をほとんど有しないこともあって、

その複雑さをはらんでいる取引の危険性を

十分認識しないままに安易に取引に入りがちです。

 

しかも、他の財産取引と異なり、不動産は特定物であり、

しかも多様性があることから、

個々の取引ごとに事情や取引動機が大きく異なります。

 

そのため取引対象を規格化したり

取引手順をマニュアル化することは著しく困難です。

 

イ 取引物件の性状

不動産売買の仲介における典型的な取引対象は

中古住宅(戸建て住宅、マンションも含めて) です。

 

中古住宅は建築年数が経過しているだけでなく権利関係、占有状態、

瑕疵(雨漏り、地中埋設物等)、隣地との境界、

建物の修繕歴等、取引物件の性状の把握が困難です。

 

仲介業者は、当該中古住宅が

不動産取引に支障のある物件かどうか、

買主の買受け目的を阻害する事由がないか・否かを調査し、

その結果を買主に対して

取引物件に関する権利関係、

占有状態等の事項として説明する義務があります。

 

仲介業者が、

取引対象である中古住宅の権利関係や性状を十分把握、

調査しないまま不十分な説明をし、

物件の引渡し後にこれらの問題が顕在化し紛争に発展することがあります。

 

また、売主のなかには、

売却にあたって不利だと思われる自己に都合の悪い事情をわざと伏せたり

(例えば差押え、不法占拠、雨漏り、境界争い、自殺等の事実の不告知ないし不開示)、

故意に虚偽の説明をする者もあります。

 

さらに、仲介業者が、

買主の契約意欲の喪失をおそれて買主にとって都合の悪い事情を

正確に説明しなかったり、曖昧にしか説明しないこともあります。

 

ウ 仲介業務の範囲

不動産仲介は、契約の成立に向けてあっせん尽力する行為であり、

契約の成立が仲介契約の目的です。

 

通常、取引物件もしくは相手方の探索、

現地案内、物件調査、資料収集・提供、取引条件の交渉・調整、

重要事項説明書の交付・説明、売買契約書の交付等が本来の仲介業務であり、

融資手続や建物調査は本来の仲介業務には含まれません。

 

しかし、仲介契約に基づく本来的な業務でなくとも、

仲介業者が委託者に対し率先して資金計画、

住宅ローン手続に関する助言、指示等を始めた場合、

取引状況によっては仲介業者が本来の仲介業務に付随するものとして

融資手続についても適切な対応をせざるを得ないこともあります。

 

このとき委託者が仲介業務の範囲内と思っていても、

仲介業者は仲介業務の範囲外と思っていたとすると

お互いの認識のずれが紛争に発展します。

 

仲介業務において仲介業者が負担すべき責任範囲は、必ずしも一義的に明確ではありません。

 

しかも契約当事者が不動産取引に不慣れであれば、

取引に関与する当事者、仲介業者はそれぞれ何をどこまで受託したのか、

仲介業者がどこまで責任を負担するのかについての認識に差異が生じ、

委託者は、ややもすると仲介業務の範囲を超えた責任を仲介業者に転嫁しがちです。

 

このような紛争を防ぐためには、仲介業務の範囲及び内容を明確化することが必要です。

 

エ 契約意識

不動産は、同一の物件を大量生産することはできない

非代替的な財産であって究極の特定物ともいえます。

 

特に中古住宅は、個々の物件によって立地条件、

建築年数、経年劣化の程度、権利関係等が異なり、

これによって取引価格も大きく異なります。

 

その結果、希少性の高い取引物件や好立地条件の物件では、

買主が買い急ぎに走ったり、

仲介業者が他に買受け希望者がいるかの如くほのめかし、

買主の購入意欲を煽り、

買主が冷静さを失って契約を締結してしまうこともあります。

 

加えて、買主が契約内容を詳しく確認しないまま

署名押印してしまう等の契約意識の低さ、

不動産取引の危険性を十分認識しないまま

安易に取引に入って紛争に発展する事例が少なくありません。

 

オ 生活基盤

不動産は、個人にとっては生活基盤 (自宅)であり、

企業にとっては事業活動の基盤(事務所、工場等の事業用物件)です。

 

そのため仲介により成立した売買契約や賃貸借契約が履行されなかったり、

履行されても買主の契約目的が達成できず、

契約を解除しなければならない事態に陥ると、

拠って(よって)立つ生活や事業活動の基盤が揺らぐことを意味します。

 

加えて、不動産の対価はきわめて

高額で損害は多額になりがちです。

 

しかも、他の商品取引であれば、

代替品の提供といった解決方法がないわけではありませんが、

不動産は特定物であって

代替性を有しないことから代替品の提供による解決を図ることはできません。

 

カ 仲介業者の資質

中古住宅の売買のような個人間の売買仲介では、

営業販売員が単独で調査、

営業、取引等一連の仲介業務を執り行うため、

仲介業務が適正に行われるかどうかは、

当該販売員の人的な資質、力量に大きく左右されます。

 

そのため仲介業者や営業販売員には

専門的な知識と豊かな取引経験、

取引物件の調査能力や

取引条件の調整能力といった資質が不可欠です。

 

しかし、我が国では

営業販売業務に従事するには資格が要件とされず、

 

取引知識のない者でも営業販売員として

取引に従事することができるため、

取引上の過誤が生じる素地があります。

 

加えて、宅建業者の経営規模は

中小零細なものが多く、

一人一人の営業販売員の資質を平均的に高めるための研修等は

必ずしも十分なされていないのが現状です。

 

キ 委託者の意識

仲介業者に売買仲介を委託する場合、

これまでは取引の相手方や取引物件を探索することに重点が置かれていたが、

不動産取引の手続、権利関係が複雑さを増すにつれて、

後日取引の相手方との取引紛争に巻き込まれないために

不動産取引の専門家である仲介業者に委託するということが増え、

これに伴い委託者が仲介業務として

要求する内容も質的にも変わってきています。

 

しかし、受託する仲介業者は、

このような委託者の意識の変化や

要求内容の変化についての認識が乏しい人が少なくなくありません。

 

 

参考文献:国立国会図書館 「不動産取引における仲介」より

 

 

 

 

筆者:大脇和彦プロフィール

愛媛県松山市生まれ
マンションデベロッパー、会計事務所を歴して独立
不動産コンサルティングとエージェント業務が主体。近年は太陽光発電所開発運営も
趣味は、土地巡り・街巡り・山巡りを兼ねたドライブ(得意笑)、筋トレ(昔はオタク)
好きなこと言葉・・・積小為大、虚心坦懐