不動産仲介業務の現状と課題 2.不動産仲介業務の課題(その1)
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2 不動産仲介業務の課題
(1)仲介業務の範囲の明確化
昭和55年5月の宅建業法改正で
媒介契約の内容を書面化することが義務づけられ
仲介業者と委託者間の契約関係が明確になってきたものの、
仲介契約における仲介業者の本来(固有)の仲介業務の範囲は、
なお判然としません。
そこで、仲介業務を円滑に進めるためにも、
仲介業者と委託者との間の契約関係と
その受託・ 委託業務の範囲を明確にする必要があります。
これが仲介業者の責任を明確にするとともに
委託者の自己責任を明確にし、
仲介業務をめぐる紛争を少なくすることにもつながります。
*平成16年3月に提出された
「標準媒介契約約款等に関する検討業務報告書」
(「媒介業務の円滑化に関する研究会」 取りまとめ) は、
そのような問題を少しでも解決すべく検討されたものです。
(2)不動産業に対する信頼の確保
昭和61年6月、建設省は、
「21世紀への不動産業ビジョン」をまとめ、
その政策の方向の一つとして、
「信頼性と安全性の向上」を挙げました。
具体的には、「消費者及び地域社会からの信頼に応えうる経営の確立」
(消費者の信頼に応える専門家としての業務能力の向上等)、
「人材の育成と企業定着のための基礎条件づくり」
(トラブルの多い分野での質の向上等)、
「適正な価格での迅速かつ安全な取引の実現」
(不動産流通標準情報システム (レインズ)の開発)
(普及及び流通機構間の業務提携統合の推進等)を指摘し、
不動産業界が「信頼產業」になるべきことを提言しました。
この提言から既に20年以上経過し、
不動産業に対する社会的な信頼は徐々に高くなってきたといえます。
宅地建物取引業が適正に運営され
取引の公正の確保と消費者保護の確保を図るには、
これに携わる宅建業者(取引士、従業者も含めて)の質の確保、
具体的には専門的な取引知識と
豊富な実務経験を有していることと
職業倫理規範の遵守が特に必要です。
ところが、現行宅建業法は、
宅建業者(法人、個人)に免許を付与する要件として
専門的な取引知識や実務経験が掲げられておらず、
宅地建物の売買、仲介等の営業販売員 (セールスパーソン)に資格試験を課したり
公的な認定資格を求めていません。
もっとも、宅地建物取引士制度として、
宅建業者の事務所、
案内所等には専任取引士の設置義務が免許要件となっており、
昭和63年の宅建業法、
施行令改正では事務所において従事者5名につき1名以上、
案内所につき1名の専任の取引士の設置義務を定めました。
宅地建物取引士は、
宅地建物取引士資格試験に合格し知事登録を受け、
宅地建物取引士証の交付を受けた者をいい、
取引士資格試験は、
「宅地建物取引業に関する実用的な知識」を
有するかどうかを判定することに基準を置いています。
取引士の職務としては重要事項説明書の説明、
同書への記名押印、
37条書面 (取引実務では売買契約書等) への記名押印が義務づけられています。
取引士証は5年毎に更新され、
その際、取引士の質の維持、
向上のために法定講習を受けることが義務づけられています。
(基準時間6時間30分、講習科目は紛争事例と関係法令、法令上の制限、税制、宅建業法)
このように宅地建物取引士は
前記事務に関与することが義務づけられているだけで、
宅地建物取引士でない者 (取引主任士資格試験にすら合格できない者を含む。) や
宅地建物取引の専門的な知識や
実務経験の乏しい者が宅地建物の販売、
契約交渉に従事することを
宅建業法上禁止するものではありません。
そのため、取引士の資格を有していない者や
不動産取引の専門的知識や経験が乏しく
宅建業法上の義務を負わない者が
数多く取引の最前線ともいえる営業販売に従事する状況にあります。
その結果、
このような営業販売員が取引上の過誤によって取引関係者に損害を与えても、
雇用している宅建業者に対する監督処分は可能であるものの、
当該営業販売員に対しては、
取引士でない限り、
監督処分の対象外であって行政上の措置を講じることすらできません。
ちなみに、米国ニューヨーク州で
不動産仲介業に従事するためには、
以下の要件を満たすためのブローカーライセンスが必要です。
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年齢要件: 18歳以上
教育要件: 120時間以上の不動産教育コース(不動産法、契約、評価、不動産市場など)の修了
経験要件:不動産ブローカー(Broker)の監督下2年以上の実務経験
試験: 不動産ブローカーライセンス試験(不動産法や契約、不動産市場、評価など)の合格
免許更新と維持: ブローカーライセンスは2年ごとの更新(更新には継続教育コース修了要件)
※仲介会社を経営するにもブローカーの資格が必要になります。
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加えて、ブローカーが所属する全米リアルター協会では
職業倫理規範 (Code of Ethics & Standards of Practice)を定めていて、
米国の不動産業者が信頼性の高い職業として評価されているのは、
不動産業に従事する者の資質の向上と
優秀な人材を確保する制度設計に因るものであるといわざるを得ません。
ところで、宅建業者と消費者との紛争は依然として多発しており、
国土交通省、都道府県の不動産課等に持ち込まれた
宅地建物取引に関する苦情紛争をみると、
重要事項の説明等に関するものがもっとも多く占めています 。
取引紛争の内容とその発生要因にかんがみると、
宅地建物取引では取引物件に関する権利関係、
法令上の制限等に関する調査、
説明が適切に行われることが重要です。
営業の第一線で顧客や取引の関係者と接する営業販売員に
専門的な取引知識や実務経験が不足していると、
取引物件の売却、
買受けに当たって、
宅建業者としてどのような調査、
確認をすべきかについて的確な判断ができないばかりか、
買主等に対し説明すべき事項について
見過ごした不十分な説明をすることとなり、
適切な業務が遂行されず、
その結果、買主等に不測の損害を被らせることとなります。
加えて、宅地建物取引に関する法令改正(法令上の制限、税法等)は頻繁になされており、
現在のような年毎の法定講習では
取引主任者が法令改正に対応し
専門的な取引知識を補うには十分とはいえません。
また、法定講習の対象者は取引士だけであって、
宅地建物取引業に従事する者(営業従事者、取引士の資格を有しない代表者等)に対し、
研修を義務づける制度は設けられていません。
もっとも、宅地建物取引業保証協会は、
「取引士その他宅地建物取引業の業務に従事し、又は従事しようとする者に対する研修」を
必要的業務として定められていますが、
どのような講習 (内容、時間数等) を実施するか定められているわけではなく、
宅建業者に勤務する従事者がすべて受講することも義務づけられていません。
また保証協会に加入せず、
営業保証金を供託して営業する宅建業者 (従事者を含む。)は、
みずから社内研修を実施している場合は別として、
継続的な研修を受ける機会を有していないのが実情です。
平成23年3月末現在、
我が国の宅建業者は、
12万5,854人 (法人、個人も含む)
大臣免許業者2,117人、
知事免許業者12万3,736人
従事者数は51万8,180人です。
経営規模をみると、
従業者数が1,000人を超える大臣免許業者がわずか18業者に過ぎません。
(100名を超える業者数を含めると236業者、1.8%)
他方従業者5人未満の業者数は10万 7,208 です(85.2%) 。
大手企業では、取引士を有する者が
従事者の9割を超えることは珍しくなく、
社内研修を実施するだけの組織と能力とが備わっています。
中小零細の宅建業者では、
その所属する業界団体等が実施する研修に参加するにとどまり、
また、このような研修にすら参加しない宅建業者、
従事者も少なくなくありません。
明石三郎教授は、
昭和56年7月当時、取引主任者資格をもたない者が
宅地建物の営業販売に従事している例が多いことについて、
「資質の低い販売員に取引を委ねることは消費者にとって危険」であり、
我が国の不動産業の現状の「水準の低さを物語るものである」と厳しく指摘し、
「取引士をもった者でなければ販売員になれないところまでレベルアップすべきである。
消費者保護の見地から、業界全体のレベルアップを推進すべきである」と過去には提言しています。
しかし、宅建業者や従事者の質の向上のために、
特に営業販売員の資格試験制の導入と専任の取引士の増員については
業界の一部が根強く反対をすることもあっていまだ実現に至っていません。
宅建業者、取引主任者や従事者の質の向上を図るには、
宅建業者や従事者が専門的な取引知識や
実務経験を維持、
向上を図る必要があることはいうまでもなく、
不動産業界が信頼性の高い業界に発展するためにも、
どのような制度設計をすべきかを真剣に考えることが重要といえます。
我が国の宅地建物取引業の現状と問題点にみると、
立法政策的には、専任の取引主任者を設置すべき数を
従事者2人から3人につき1人の割合で設置すること、
中長期的には、一定の経過期間を設けた上で
宅地建物取引業の営業活動に従事する者には
営業販売員資格試験に合格して資格認定を受けることを課すこととし、
当面、取引主任者の資格を有しない従事者に対し
一定の講習を受けることを義務づける制度を導入するべきでしょう。
また、現在、取引主任者に対する法定講習は5年毎ですが、
法定講習の回数(時間数)を増やすとか
保証協会による従事者研修を受講することを義務づける等、
日頃から売買・賃貸借等の取引実務、法令上の制限、
不動産税務に関する基本的な知識に併せて法改正、
取引紛争事例等に関する研修を受ける機会を増やし、
専門的な取引知識を向上することができるように制度の改善を図るべきです。
また、保証協会の従事者対象の研修業務についても、取引士だけでなく、
取引士の資格を有しない者、
新規に宅地建物取引業に従事する者を対象とする研修を充実させることが必要です。
参考文献:国立国会図書館 「不動産取引における仲介」より
筆者:大脇和彦プロフィール
愛媛県松山市生まれ
マンションデベロッパー、会計事務所を歴して独立
株式会社トータルマネジメント設立し、代表取締役として現職
不動産コンサルティングとエージェント業務が主体。近年は太陽光発電所開発運営も
趣味は、土地巡り・街巡り・山巡りを兼ねたドライブ(得意笑)、筋トレ(昔はオタク)
好きなこと言葉・・・積小為大、虚心坦懐