不動産仲介業務の現状と課題 2.不動産仲介業務の課題(その2)
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2 不動産仲介業務の課題(その2)
(3) 両手仲介の問題点
ア 両手仲介
我が国の不動産業界では、
仲介業務の形態として、
1人 (1社)の仲介業者が契約当事者の双方から
同時に仲介を受託する ことは珍しくありません。
(売買であれば売主・買主 双方から、賃貸借であれば貸主・借主双方から仲介受託すること)
仲介業者は、
仲介により成約に至れば
契約当事者の双方からそれぞれ仲介報酬を受け取ります。
これを “両手”、 “両手仲介” と呼び、
このような取引慣行は相当以前から行われています。
両手仲介の当否については、
これまであまり表立って議論されておらず、
従来不動産業界ではこれを議論すること自体に抵抗がありました。
その大きな原因は、
両手仲介が禁止ないしは制限されると、
仲介報酬は一方からに限られ、
収入が半減するという
仲介業者の経営的基盤に大きく係わることにあります。
1回の仲介で、
当事者双方から報酬を取得できる両手仲介は
仲介業者にとっては魅力です。
米国の MLS(共同仲 介情報機構)を参考にして、
我が国でも昭和57年5月から不動産認定流通機構を立ち上げ、
その後指定流通機構に名称を改め、
仲介業者が専任媒介契約[専属専任媒介契約] を締結したときには
宅建業法上指定流通機構に7日以内[5日以内]に
物件登録義務を負うものと義務づけました。
しかし現実には、仲介業者は、
高額な仲介報酬が見込まれる売却物件ほど、
他の仲介業者へ物件情報を流さず、
自らのつてで取引の相手方を探し出し、
契約当事者の双方から同時に
仲介委託を受け両当事者から報酬を得ようとします。
イ 宅建業法における取扱い
宅建業法2条2号は、
代理とは異なる取引態様として媒介を規定しています。
宅建業者が代理を業とする場合、
マンション分譲業者、
宅地分譲業者等の事業主から販売業務を受託し、
これを代理して買主と売買契約を締結します。
契約当事者の双方から同時に
代理権を授与されることはありません (双方代理 の禁止、民法108条本文)。
ところが、媒介(仲介)は、
仲介業者が契約当事者の双方または一方から
売却仲介等の委託を受けて
契約当事者間に契約を成立させるべく
あっせん尽力するものであり、
契約当事者から
代理権を授与されるわけではないため
代理に当たらず、双方代理の禁止規定は適用されません。
加えて、報酬告示は、
“媒介(仲介)の場合は
契約当事者の双方から報酬を受け、
代理の場合は委託者本人から
媒介報酬の2倍以内で代理報酬を受けることができる”
と定めています。
*代理業者が代理行為と併せて媒介的行為を行う場合、代理の委託者のほかに、取引の相手方からも報酬を受けることができます (昭和45年10月23日計宅政発第211号計画局長通達)。 この問題性については「後記3(オ)」。
ウ 中立公平性の確保
宅建業法が「代理」と異なる取引形態として
「 媒介(仲介)」を認め、
両手仲介も容認していることをもって、
両手仲介が不動産取引として適正、
妥当なものであると結論づけるべきではありません。
媒介人 (仲介人)の中立公平な立場、
仲介業者の誠実義務の観点から
両手仲介の当否を検討する必要があります。
両手仲介(両手報酬)が
正当な取引慣行として挙げられる理由は、
1我が国では、不動産仲介は、
結婚の仲人と同様に、
契約当事者の双方から委託を受け、
双方から仲介報酬を受ける取引慣行が長くあること、
2 仲介業者は契約当事者の双方から同時に仲介の委託を受けても、
中立公平に仲介業務を行っており、
当事者の一方だけに偏した仲介は行っていないし、
双方から委託を受けたことで
不公平な仲介行為をした紛争事例もないこと、
3もし契約当事者が別々の仲介業者に委託すれば、
仲介業者がそれぞれの委託者の立場や利益を強く主張し、
却って利害が対立し、
まとまる取引がまとまらなくなるおそれがある(あるいは成約に時間がかかる)、
といったものであります。
しかし、これまでの取引慣行といった前記1は、
両手仲介を認める理由になり得ません。
もし取引慣行に不都合があれば
それを改めることによって
不動産取引の適正かつ公平を図るべきです。
仲介業者が契約当事者の双方から売買、
賃貸借等の仲介の委託を受けた場合には、
片手仲介と異なり、
仲介業者が両当事者 (両委託者)に対する関係で
中立公平な立場を保持して
適正に仲介業務を行うべきであると強調しても、
現実の仲介業務において、
利害対立する契約当事者の間に立った仲介業者が、
果たしてどこまで中立性、
公平性を保持し適正な取引を遂行できるかは、
はなはだ疑問です。
両手仲介において、
仲介業者が中立公平な立場を維持して
適正に業務を遂行できるかどうか、
個々の取引において中立公平かどうかは、
仲介業者(営業販売員)の主観的な認識と判断、
裁量的な問題に依拠せざるを得ません。
これでは客観的な中立性、
公正性を確保することはできず、
前記2は両手仲介を正当化する根拠とはなり得ません。
民事仲立に関するドイツ民法652条の規定によれば、
仲介は、仲立人が売買等の契約の成立に向けて
あっせん尽力する行為であり、
仲立人は売買等の契約が
成立することを条件に報酬を請求することができます。
しかし、仲立人が契約の内容に反して
相手方のためにも行動したときは、
報酬及び費用償還を請求することができません。
(柚木 馨「現代外国法典叢書(2)独逸民法、右近健男編 「注釈ドイツ契約法」)
エ 両手仲介と誠実義務
仲介業者が仲介を受託した段階では必ずしも
契約当事者 (双方とも委託者)の利害対立が
顕在化しているわけではありません。
しかし、仲介業者が取り扱う取引は、
売買、賃貸借といった典型的な双務契約であり、
売主対買主、貸主対借主という利害が
相対立する性質を有する契約構造にあります。
したがって、仲介業者が契約当事者の間に立って交渉し、
交渉が進むにつれて
取引条件に関して種々対立点や条件の乖離が顕在化し、
両者の利益調整(一方または双方の譲歩)を図る必要が生じてきます。
つまり、売買・賃貸借は、
契約当事者が将来利害対立する構造を潜在的に内包しているのです。
ところで、仲介業者は、
委託者に対し仲介契約に基づく誠実義務を負う
(宅建業法31条1項)ため、
委託者の利益を最大限実現する義務を果たすことが求められます。
しかも、通常、契約当事者は
不動産取引の専門的知識や経験に乏しいだけに、
委託者は、仲介業者が委託者の正当な利益を図るために
仲介業務を遂行するもの、
委託者の利益を図るために
委託者の側に立って相手方と取引交渉してくれるものと
信頼して仲介を委託しており、
自己に有利な取引条件で契約が成立することを期待しています。
しかし、契約当事者の双方から同時に仲介の委託を受けた仲介業者は、
利害対立する売主と買主との間に立って、
一方で売主に対する誠実義務を果たそうとすればするほど、
他方で買主に対する誠実義務を果たせなくなることは明らかです。
すなわち、不動産売買の仲介についていえば
多額な財産取引であるだけに、
売主は、できるだけ高額な価格、
自己に有利な取引条件で売却することを追求し、
他方、買主は、できるだけ低額な価格、
自己に有利な取引条件で買受けることを追求するものであって、
売主、買主それぞれが委託する仲介業者に対し、
自己の取引条件に少しでも近づけるべく、
相手方との契約交渉を求めることは当然であって、
非難されるべきものではありません。
また、売主と買主とが利害対立するのは
価格交渉だけでなく、
例えば売主の瑕疵担保責任を制限もしくは
免責させる特約を付するか、
どのような内容の特約にするかは、
売主と買主にとっては非常に利害の対立する条項です。
売主の瑕疵担保免責特約は、
後日、瑕疵の存在が判明した場合に、
売主にとっては、
買主の損害賠償請求や契約解除から
免れる非常に有利な取引条件であるのに対し、
買主にとっては、
民法に規定する瑕疵担保責任が追及できず、
支払った売買代金に見合う価値のある財貨が得られず、
重大な瑕疵の場合には契約目的を達成できず不測の損害を被ります。
当事者双方から仲介を受託した仲介業者が、
成約に向けて当事者の間に立って契約交渉をすると、
必ずや取引価格だけでなく
売主と買主間で利害が対立する取引条件をも含めて交渉、
調整しなければなりませんが、
一方の委託者に対し誠実義務を尽くすことは、
他方の委託者に対する誠実義務に背くことにつながります。
※仲介業者は、委託者から取引物件の指値を指示されて売却、買受け仲介を委託されたような場合を除き、取引物件に関する取引相場の価格を調査し、委託者の利益となるような売買条件の策定に向けて努力する義務を負います。
その結果、 両手仲介の場合、仲介業者は中立公平に価格査定を行うべき義務を負い、当事者の一方の意向を反映した価格をもって他方と取引交渉すべきではありません。
しかし、現実には早期の成約によって報酬を得たい仲介業者が中立公平に査定した価格をもって両者の間に立って取引交渉を適正に行えるかどうかは甚々疑問です。
もし両手仲介において、
成約に向けて利害調整を行う仲介業者は、
一方の委託者に偏ったり、
不利な事実を伏せて
当事者間の利害を調整すべきではなく、
公平かつ透明な形でそれぞれの取引条件を相手方に伝え、
これを通じて適正な価格調整を図り、
また適切な助言、
指導を行い、合意に達するように努力すべきです。
しかし、売主と買主の利益は
本来真っ向から対立するものであり、
仲介業者が取引条件の調整を中立公平に進めるといっても、
仲介業者にとって、現実には、
成約によって一挙に双方から
報酬が得られる期待があるだけに、
仲介業者と委託者との力関係を反映して、
契約当事者のいずれかの立場に傾きがちです。
また、 仲介業者は、
当事者双方の内情を知り得る立場にあり、
例えば売主に対しては
「そのような取引価格では売れない」と説得し、
売主が希望する取引価格等の条件を抑えつつ、
買主に対しては「これ以上安くはならない」と説明する等、
当事者の利益ではなく、
早期の成約による報酬獲得という自己の利益のために
当事者の一方に偏った形で仲介を行うおそれは十分あり得ます。
このように、1人の仲介業者が
利害対立する契約当事者の双方に対し、
同時に、最大限の利益を図るべく等しく
誠実に業務を遂行することは、
本来不可能なことであり利益相反行為に当たります。
当事者双方がそれぞれ別の仲介業者に仲介を委託し、
委託を受けた仲介業者が
もっぱら自己の委託者のために
誠実義務を尽くすことで
落ち着きどころを探し成約に至ることが
仲介契約の本来の姿であり、
このような中で利害調整を行うことが
まさに仲介であるから
「前記(3)ウ3」 のように利害調整は
1人の仲介業者に任せる方がうまくいくというのは、
中立公平な仲介の意味を取り違えた議論です。
オ 仲介に対する措置
両手仲介は、現在、
宅建業法で明示的に禁止されていないものの、
適正な取引を進めるうえでは望ましくない仲介の形態です。
参考文献:国立国会図書館 「不動産取引における仲介」より
筆者:大脇和彦プロフィール
愛媛県松山市生まれ
マンションデベロッパー、会計事務所を歴して独立
不動産コンサルティングとエージェント業務が主体。近年は太陽光発電所開発運営も
趣味は、土地巡り・街巡り・山巡りを兼ねたドライブ(得意笑)、筋トレ(昔はオタク)
好きなこと言葉・・・積小為大、虚心坦懐