不動産仲介業務の現状と課題 3.不動產仲介契約とは(その3)
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3 不動産仲介契約の特質
我が国には民事仲立に関する規定はありません。
宅地建物の取引の公正を確保するため
宅地建物の売買等の媒介を行政上の見地から
業務規制する宅建業法はありますが、
同法は不動産仲介に関する実体規定に代わるものではありません。
昭和55年5月の宅建業法改正における
媒介契約の規制 (34条の2) によって
標準媒介契約書が策定され普及し、
不動産仲介契約関係は以前に比べて明確になったものの、
不動産仲介取引をめぐる民事上の紛争が生じたときに
裁判規範として直接適用できる
不動産仲介に関する実体規定がないことには変わりはありません。
そのため、仲介業者の法的地位、
仲介業者と委託者との法律関係等、
不動産仲介契約に関する紛争解決の規準として、
個々の取引事案に応じて民法の委任、
請負、雇用等、商法の仲立営業等の諸規定を適用
もしくは類推適用するほか、
宅建業法による業務規制の規定にもかんがみながら
解釈することになります(東京高判昭50. 6. 30 )。
そこで、不動産仲介契約と委任、請負、雇用等の典型契約とを比較検討して、
不動産仲介契約の特質
(明石・研究 2頁は「仲介契約の独自性」と呼ぶ。)
を把握しておくことが必要となります。
(1) 仲介と雇用
雇用は、労働者が使用者に対して
労働に従事することを約し、
使用者がこれに対して
その報酬を与えることを約するものであり、
労働に従事する (労務を提供する)ことで
その効力が生じます (民法623条)。
労働者は、労務に服する、
つまり使用者の指揮命令の下にあり、
使用者の指示に従って
労働に従事するところに特質があります (従属性)。
これに対し、仲介は、
仲介業者が委託者から仲介の委託を受けて
売買等の契約の成立に向けて尽力する点で、
雇用における労務の提供とは似通っていますが、
労務提供そのものが契約の目的ではなく、
仲介業者の仲介による契約の成立が契約の目的となります。
委託者は、仲介委託に際して
仲介業者に取引条件を指図し、
仲介業者はこれに従って
仲介業務を遂行するとしても、
委託者との間は雇用のように命令服従関係にはありません。
仲介業者がどのような仲介業務をなすべきかは、
委託者の指図に従いつつ
仲介業者の専門的な技量や裁量的判断に任されます。
しかも、 仲介業者は仲介委託の趣旨に従って、
仲介業者として求められる
業務上の注意義務を尽さなければなリません。
その意味で、仲介業者は、
雇用契約における被用者と異なり、
委託者から独立した立場にあります (独立性)。
仲介業者の専門的な取引知識と豊かな取引経験を活かして、
専門家としての裁量的判断をもって
誠実かつ適正に仲介業務を遂行するところに仲介の特徴があります。
(2)仲介と請負
請負は、請負人が注文者との間で、
ある仕事を完成することを約し、
注文者がその仕事の結果に対して
報酬を支払うことを約することによって、
その効力を生じます(民法632条)。
仲介は、仲介業者の仲介により
売買等の契約が成立してはじめて
委託者に報酬を請求することができます。
請負と仲介は、それぞれ
「仕事の完成」、「契約の成立」を契約の目的とし、
「仕事の完成」、「成約」に対して
対価 (報酬) が支払われるという点で
似通っており請負的要素があります。
しかし、請負は、請負人が仕事を完成する義務を負い、
注文者は仕事完成請求権を有し、
完成すべき仕事の内容は、
請負人と注文者との合意により定まります。
請負における報酬請求権は
請負契約と同時に成立し、
その支払時期は仕事の完成後となります(民法633条)。
他方、仲介では、契約の成立を
契約の目的とするといっても、
委託者が取引物件、
取引条件(売却価格等)等の希望を示し、
仲介業者がこれに沿った取引物件、
取引の相手方等を探索し、
成約に向けてあっせん尽力するに過ぎません。
したがって、仲介業者は、
成約を実現する義務を負うわけではありません。
委託者の希望に適った取引物件を
探すことができるかどうかは不確かで、
たとえこのような物件を探し出したとしても
委託者と相手方との間で
売買等の契約が成立するかは
契約当事者の自由な意思に係わることになります。
また委託者も
仲介業者の探し出した取引物件について
契約締結義務を負うものではありません(大阪地判昭58. 7. 14)
ただ、例外的に、例えば
地権者と交渉して
特定の土地の買収を委託される
「地上げの買取り仲介」には、請負的要素があります。
(3)仲介と委任
委任は、委任者が受任者に対して
法律行為をすることを委託することをいい (民法643条)、
法律行為でない事務の委託は準委任になります(民法656条)。
民法の規定は、委任と準委任を別個に規定していますが、
いずれも委任者が受任者に対し
一定の事務を処理することを委託することに委任の目的があります。
仲介は、売買等の契約という法律行為を仲介するものですが、
仲介の受託者が行うのは
当事者間の売買等の契約の成立に向けて
取引物件や取引の相手方の探索・紹介、現地案内、物件資料の提供、価格交渉等のあっせん尽力
という事実行為であり、
法律行為でない事務の委託になります。
また、 委任もしくは準委任は、
契約の成立という
一定の成果そのものを目的として事務を処理するものではありません。
参考文献:国立国会図書館 「不動産取引における仲介」より
筆者:大脇和彦プロフィール
愛媛県松山市生まれ
マンションデベロッパー、会計事務所を歴して独立
不動産コンサルティングとエージェント業務が主体。近年は太陽光発電所開発運営も
趣味は、土地巡り・街巡り・山巡りを兼ねたドライブ(得意笑)、筋トレ(昔はオタク)
好きなこと言葉・・・積小為大、虚心坦懐