不動産仲介業務の現状と課題 不動產仲介契約とは(その5)
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5 民法、商法の適用関係
(1) 仲介と民法の規定
ア 民法648条 (受任者の報酬)
民法上の委任、準委任は、
「無償契約であるから、
受任者は、特約がない限り、
委任者に対し報酬を請求することはできない (民法648条1項)。」とあります。
しかし、仲介業者は、
宅地建物の売買等の仲介(媒介)を業として営む者ですから、
仲立に関する行為 (商法502条11号) を営業とする者として
商人に該当します。(商法4条1項)。
したがって、不動産仲介に関して
仲介業者と委託者との間において
報酬を支払う旨の定めがなくとも、
仲介業者の仲介行為により
売買等の契約が成立 (成約)に至れば、
仲介業者は委託者に対し
相当な報酬を請求することができます (商法512条)。
宅地建物の売買、交換の仲介契約は、
宅建業法34条の2第1項に基づき
標準媒介契約・同約款により締結され、
これには報酬を支払う旨の約定があることから有償契約となります。
委任が受任者の責めに帰すことができない事由によって
履行の中途で終了したときは、
受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができます(民法648条3項)。
不動産仲介に関して委託者が
仲介業者を排除して取引の相手方と直接取引をした場合、
仲介業者が委託者に対し
民法648条3 項の類推適用に基づいて
報酬請求できるとする裁判例があります
(広島高裁岡山支判昭33.12.26、横浜地判昭42. 10. 27、大阪地判昭46.10. 1、
東京地判昭47.6.5、東京地判昭47. 11. 15)。
しかし、委任は、仕事の完成を目的とする請負と異なり、
事務処理を目的とすることから
割合的報酬を定めた民法648条3項が設けられています。
不動産仲介を準委任とみるとしても、
売買等の契約が成立したときにはじめて
報酬請求権が発生するという仲介契約の特質に照らせば、
委託者(売主など)が仲介業者に売買の仲介を依頼しながら、
他の方法で不動産を売ってしまう場合、
これは信義則に違反する行為とされます。
ただし、東京高裁の判例(昭和50年6月30日)のような特別なケースを除いて、
民法648条3項の類推適用は認められるべきではありません。
つまり、不動産仲介業者に対して契約を依頼した場合、
契約が成立すれば報酬を支払わなければなりません。
また、仲介業者に依頼しながら
他で売買を行うのは信義則に反する行為であり、
例外的なケースを除いては、
法律上の根拠として民法648条3項を適用することはできません。
イ民法644条 (受任者の注意義務)
委任における受任者は、委任の趣旨に沿って適正に事務を処理すべき義務
を負います(善管注意義務、 民法644条)。
不動産仲介においても
仲介業者が自己の裁量で事務を処理する点は、
仲介と委任・準委任とはほぼ共通しており、
仲介における受託者も委託の本旨に従い適切に事務を処理すべき義務を負います。
加えて、宅建業者である仲介業者は、
宅建業法の規定により、委託者及び取引の関係者に対して、
信義に従い誠実に業務を遂行するべき義務を負い、
重要事項説明義務、
事実不告知・不実告知の禁止等の諸規定を
遵守して宅地建物取引業を誠実かつ適正に遂行しなければなりません。
ウ 民法645条、646条 (受任者による報告、 受取物の引渡し)
受任者は、委任者の請求があるときは、
いつでも委任事務の処理の状況を報告し、
委任終了後、遅滞なくその経過及び
結果を報告する義務(民法645条)、
受取物を引き渡すべき義務(民法646条1項)を負い、
これらの規定は不動産仲介においても
原則として適用されます。
また、専任媒介契約及び専属専任媒介契約の場合、
仲介業者は委託者に対し、業務処理状況の報告義務を負います。
エ 民法650条1項 (受任者による費用等の償還請求)
受任者は委任事務を処理するのに
必要と認められる費用を支出したときは
委任者に対し費用償還請求をすることができます (民法650条1項)。
しかし、仲介は、
仲介業者の仲介により成約した場合にのみ
報酬を請求することができ、
仲介事務の処理に通常必要な費用は
仲介のための経費として仲介業者が負担すべきものであって、
契約の成否にかかわらず、
報酬とは別に委託者に対し費用償還請求をすることはできません。
したがって、民法650条は不動産仲介には適用されません。
ただし、委託者の特別の依頼による広告、
遠隔地の現地調査費用等はこの限りではありません。
標準媒介契約書で媒介契約を締結している場合には、
一定の要件の下で費用等の償還請求をすることができる場合があります
(専任約款13条、専属約款12条、一般約款13条、14条)。
才 委任期間
委任では、委託期間を定めることは
当事者の合意に委ねられているが、
不動産仲介では
専任媒介契約と専属専任媒介契約の有効期間は3ヶ月を超えることはできず、
これに違反すると有効期間は3ヶ月とされます。
カ 民法651条1項、 652条、 620条 (委任の解除、効力)
仲介も委任と同様、
委託者と受託者との人的な信頼関係を基礎にしていることから、
委任の解除、委任の終了事由(民法651 条1項、653条)は、
原則として不動産仲介に適用されます。
期間の定めのある仲介契約を締結した場合に、
委託者と受託者である仲介業者のいずれかが
期間途中で解除することができるかどうかが実務上問題となります。
標準媒介契約書及び同約款には
解除に関する条項があるため
(34条の2第1項4号、専任約款15条、16条、
専属約款14条、15条、一般約款16条、17条)、
この条項に基づく解除は可能ですが、
これ以外の場合に解除ができるかどうかについて検討を要します。
なお、委任では、
当事者の一方が相手方に不利な時期に委任を解除したとき、
その当事者の一方は相手方に損害賠償をしなければなりません(民法651条2項)。
不動産仲介についても、
委任における解除の自由を適用すべきでしょう。
ただし、委託者が仲介契約を解約したことにより
受託者である仲介業者が報酬請求権を失ったとしても、
これは民法651条2項にいう損害には含まれません。
参考文献:国立国会図書館 「不動産取引における仲介」より
筆者:大脇和彦プロフィール
愛媛県松山市生まれ
マンションデベロッパー、会計事務所を歴して独立
不動産コンサルティングとエージェント業務が主体。近年は太陽光発電所開発運営も
趣味は、土地巡り・街巡り・山巡りを兼ねたドライブ(得意笑)、筋トレ(昔はオタク)
好きなこと言葉・・・積小為大、虚心坦懐