不動産仲介業務の現状と課題 仲介と代理(その3)
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(4) 裁判例
宅建業者の立場が代理か仲介かについて争われたものがあります。
[売買の代理を認めた事例〕
11 【東京高判昭55. 12. 19判夕438号151頁】
〔事案〕 宅建業者X は、Y (ゴルフ場を経営する会社) のために土地所有者との間でゴルフ場用地を買付ける契約を締結した。
YはXに対し、報酬は、土地所有者との売買契約が成立しYが土地の引渡しを受けたときに支払う旨合意した。
Xは、土地買付けにつきY と代理契約を締結したとして代理報酬を請求し、予備的に商法512条に基づき相当報酬を請求した。
Xが代理人か仲介人か、具体的な報酬の定めがあったかどうかが争われた。
原審はXの請求を一部認容し、Yが控訴し、 Xは附帯控訴した。
〔判旨〕 控訴棄却、附帯控訴に基づき原判決変更、X の請求棄却。
Xが支払を受けるべき報酬について、他にもXY間に具体的な額ないし算定割合を定める合意があったことを認めるに足りる証拠はなく、結局、両者の間には、単に報酬を支払う旨の合意があったにとどまるものといわざるをえない。
しかし、商人であるXがその営業の範囲内においてYのために行為をしたのであるから、XはYに対し商法512条により相当の報酬を請求することができ、その相当の報酬は、本件においては、法令による制限、不動産取引業界の慣行、X の行った買付業務の内容、難易、期間、これに要した労力、費用、取引額その他諸般の事情を斟酌して算定するのが相当である。
本件においては、Yがゴルフ場建設のため一方的に土地の買入れを計画したもので、土地所有者側にはもともと土地売却の意向はなかったのであり、X 代表者Aは、Y側の者として土地買付けの衝にあたり、もっぱらYの利益を図るべく行動し、Xは土地所有者とは利害の対立する立場に立っていたものであること、したがって、売買契約が成立しても、Xが土地所有者から何らかの報酬の支払を受けるなどということはもとより期待しうべくもなかったこと、XはYからおよそ買付単価その他契約の大綱こそ、指示されていたが、個々の買付けにあたっては相当の範囲の裁量権をもって交渉を行い、Yに代わって買受けの意思表示をする権限をも与えられており、現にXと土地所有者との間の売買契約書の調印や代金の支払は、Yの社員が立ち会うこともあったが、X代表者Aないし社員Bだけで行う場合も少なくなかったこと、以上の事実が認められ、右によれば、XはYから本件報酬告示の第一にいう売買の媒介ではなく第二にいう売買の代理を依頼され、これを実行したものと認めるべきである。
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【解 説】
この裁判事案は、宅建業者Xがゴルフ場を経営する会社Yのために
土地所有者とのゴルフ場用地の買付け契約を締結したことに関するものです。
XはYに対して報酬として
土地所有者との売買契約成立後に支払う旨の合意があったと主張し、
代理報酬を請求しました。
しかし、Yは具体的な報酬額や算定割合についての合意がなかったと主張し、
報酬の支払いを否定しました。
原審ではXの請求が一部認められたものの、
Yが控訴し、Xも附帯控訴を行いました。
しかし、控訴審ではXの請求が棄却される判決が下されました。
判決の主旨は、Xが報酬を受けるべき
具体的な額や算定割合についての合意がないため、
Xの請求が認められなかったとされています。
ただし、Xが商人であるため、
商法512条により相当の報酬を請求することが認められます。
報酬は、不動産取引業界の慣行やXの行った
買付業務の内容、難易、期間、労力、費用、取引額などを考慮して
算定される必要があるとされています。
この事案では、XはYのために行動し、
土地所有者とは利害の対立する立場に立っていたことが指摘されています。
また、具体的な報酬額についての指示はあったものの、
Xには相当の裁量権が与えられており、
買付けにあたって交渉を行い、
契約の実行に関しても一定の権限を持っていたことが認められました。
結果として、XはYから売買の代理を依頼され、
それを実行したと認められたため、
代理報酬を請求することはできないという判決が下されました。
〔委任状の交付があったが仲介であるとした事例]
2 【東京高判昭57.9.28判時1058号70頁、判夕485号108頁、 金融商事665号41頁】
〔事案〕
売主業者Xは、X及びA共有の土地建物を売却するに当たり宅建業者Yに依頼し、Yを代理人と定めて本件土地建物の売買に関する不動産業務の一切の行為を委任する旨の委任状を交付した。
本件売買にはYのほか仲介業者Bが関与し、買主Cとの間で売買契約(代金1350万円) 成立後、XはYに対し、Bに対する仲介手数料名目 46万5000円、Yに対する仲介手数料名目で40万円、 Bの従業員に対する謝礼金名 目で10万円を支払い、広告宣伝費名目で53万5000円を支払った。
Xは、 Y及びBが受領できる媒介報酬の合計額は46万5000円を超えることができないとし、超過報酬額と広告宣伝費合計103万5000円の不当利得返還請求をした。
XY関係が代理か媒介かが争われ、 原審は代理と認定しXの請求を棄却したが、控訴審は、原判決を取消し、X の主張を認め全部認容した。
〔判旨〕
Xは、単独で、昭和52年10月9日、宅建業者であるY (Yが宅建業者で あることは、当事者間に争いがない。) との間において、X及びA共有の本件土地建物について、Yが買主を探し、 X及びAとCとの間に売買の媒介をして売買契約を成立させた場合に、XはYに対し売買代金額を基準として所定の報酬を支払う旨の宅地建物の売買に関する媒介契約を締結したことを認めることができる (Yが本件土地建 物の売買につき依頼を受けたことは、当事者間に争いがない。)。
もっとも、〈証拠省 略》には、Yを代理人と定めて本件土地建物の売買に関する不動産業務の一切の行為を委任する旨の記載があり、原審証人甲及び原審におけるY代表者は、YはX及Aを代理して本件土地建物を売却する事務処理の委任を受けた旨供述している。
しかし、証拠省略》によれば、一般に宅建業者が不動産の売主または買主の代理人として取引に関与するのは、目的物が遠隔地にある場合、当事者が遠隔地に居住し、契約に立会うことが困難な場合等特にその必要がある場合においてであり、通常は媒介の形式で関与するものであるところ、本件においては、代理人として取引に関与する特段の必要があったと認めるに足りる証拠はないこと、前記委任状はY備付の用紙に従業員である甲が委任文言を書き込んだものであるが、Yは、代理による土地建物の売買の委任を受ける場合も媒介契約を締結する場合も、同一の定型的な委任状の用紙を使用しその間に区別を設けていないと認められること、領収書には 「金40万円但し東久留米市下里・・丁目・・土地付建物売買仲介手数料」と記載されていることに照らすと、前記委任状の記載をもって前記認定を左右するには足りない。
また、証拠省略>によれば、Yは、X及びAを代理しCとの間に本件土地建物の売買契約を締結していることが認められるところ (Yが関与してX及びAとCとの間に本件土地建物について売買契約が成立したことは、当事者間に争いがない。)《証拠省略》によれば、右売買契約についてのYの代理行為はXらに無断で行われ、契約成立後はじめてXらに知らされたものであったが、 Xらは、 右売買契約自体の成立を争うつもりはなかったから、あえてこれに異をとなえなかったものと認められるので、前記事実は 前記認定を左右するものではない。
なお、前記領収書のあて名はXとAの両名となっているが、前記委任状にはXが単独で署名押印していること及び 証拠省略》を総合すると、Yとの本件土地建物の売買に関する媒介契約は、Xが単独で締結したものと認めるのが相当であり(媒介契約であれば本件土地建物の共有者の一人であるXが単独で締結することができるが代理契約であれば、共有者全員によって締結されるべきものである。)、 領収書の記載は右媒介の結果成立した売買契約における売主がXとAの両名であったため、甲において誤って両名の名を記載したものと考えられ、右記載があることをもって右媒介契約がX (単独) とYとの間において締結されたことの認定を妨げるものではない。
二Yが関与して昭和52年11月中旬ころX及びAを売主としCを買主として本件土地建物について代金1350万円の売買契約が成立したことは、当事者間に争いがなく、 《証拠省略> によれば、右売買については、Yのほか宅建業者であるBがYの依頼により媒介行為を行ったことを認めることができる。
三本件報酬告示第一の規定によれば、宅建業者が宅地又は建物の売買の媒介に関し依頼者から受けることのできる報酬の額は、依頼者の一方につき、それぞれ当該売買に係る代金額を区分し、200万円以下の金額に100分の5 200万円を超え400万円以下の金額に100分の4400万円を超える金額に100分の3を乗じて得た金額を合計した金額以内と定められており、また、一個の売買に関して媒介者が数人あり、各媒介者がその数人の関与をあらかじめ承諾しているときは、右媒介者らが受けるべき報酬の合計額は、法定の最高額を超えることができないものと解される。
これを本件についてみると、前記二認定の事実によれば、本件土地建物の売買代金は1350万円であり、またY及びBは互に本件土地建物の売買について関与することを承諾していたと解されるから、本件土地建物の売買の媒介に関しY及びBが受けることのできる報酬額の最高額が46万5000円となることは、計数上明らかである。 (略) Yが受領した右各金員は、その交付の趣旨に照らし本件土地建物の売買に関し媒介を行った宅建業者に対する報酬の性質を有するものと解すべきところ、右業者が受けることのできる報酬の合計額は前述のように46万5000円を超えることはできないのであるから、右業者が報酬の最高額を受けることができるかどうかはさておき、少なくとも右額を超える50万円については宅建業者であるYはこれを報酬として受領することはできないものといわなければならない。
そして右50万円について他にYがこれを受領することができる原因を認める証拠はないから、YはXから右50万円を法律上の原因なくして受領し、これによりXは右同額の損失を被ったというべきである。
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【解説】
〔事案〕について
売主業者Xは、自分と共有者Aの土地建物を売るために
宅建業者Yに代理人として依頼しました。
売買取引には他に仲介業者Bも関与し、売買契約が成立しました。
その後、XはYとBに支払った報酬と広告宣伝費の合計額が
規定を超えているとして、超過分の返還を求めました。
裁判では、XとYとBの関係が代理か媒介かが争われ、
最初の判決では代理と認定されてXの請求は棄却されましたが、
控訴審ではXの主張が認められ、
YとBに超過した金額を返還させる判決が出ました。
つまり、Xの要求が認められてYとBに返還させることとなりました。
〔判旨〕について
XとAは共有の土地建物を売却する際、宅建業者であるYに売買の媒介を依頼しました。
Yは売買契約を成立させ、売買代金として1350万円が決まりました。
XはYに対し、媒介手数料として40万円、広告宣伝費として53万5000円を支払いました。
しかし、法律上Yが受領できる報酬の合計額は46万5000円まで制限されており、実際にはYが受け取った金額がその制限額を超えていました。
そのため、Xは超過分の50万円を不当利得としてYに返還を求めました。
裁判では、XとYの間には代理契約ではなく媒介契約が締結されたと判断されました。しかし、Yが代理契約の記載をした委任状を持っていたため、代理契約での関与が争点となりました。裁判所は特段の必要性がないとして代理契約を認めず、媒介契約がXとYの間で成立していると判決しました。
また、Yと別の宅建業者であるBも売買に関与しており、報酬額に関しても規定がありました。
報酬の最高額は46万5000円までであり、売主と買主が複数の媒介者を承諾した場合でも、合計額は上限を超えることはできませんでした。
Yが受領した金額については、報酬として受け取れる範囲を超えていたため、Yは法律上の根拠がなく50万円を受け取ったことが認定されました。
そのため、YはXに対して50万円を返還しなければならないと判決されました。
参考文献:国立国会図書館 「不動産取引における仲介」より
筆者:大脇和彦プロフィール
愛媛県松山市生まれ
マンションデベロッパー、会計事務所を歴して独立
不動産コンサルティングとエージェント業務が主体。近年は太陽光発電所開発運営も
趣味は、土地巡り・街巡り・山巡りを兼ねたドライブ(得意笑)、筋トレ(昔はオタク)
好きなこと言葉・・・積小為大、虚心坦懐