不動産仲介業務の現状と課題 5.仲介と情報提供 (その2)
不動産仲介手数料を節約、削減したい方向けに仲介サービスを提供しているトータルマネジメントです
イ
不動産取引においては、売買契約書や賃貸借契約書の末尾には「立会人」欄があり、
仲介業者がここに署名することがあります。
ただし、「立会人」という表現が曖昧なため、
最近では「取引業者」や「媒介業者」といった表記に変更されることが増えています。
仲介業者が立会人欄に署名することによって、
契約当事者が売買契約書の条項について合意し、
売買契約が成立したことを確認するとともに、
仲介業者が当該取引に関与したことを確認します。
その結果、仲介業者が立会人欄に署名押印した契約書は、
契約内容が当事者間で合意された事実を証明すると同時に、
仲介業者としての責任の所在を明確にします。
ウ
売買契約締結に向けて当事者間で取引条件に関する交渉が進み、
売買契約の基本的な条項(取引物件、代金、支払条件、履行期など)が
ほぼ合意に達した段階で、
正式に売買契約を締結するに当たって、
取引交渉に関与していない宅建業者に
売買契約書の作成や立会いを依頼することがあります。
この場合、契約当事者は
宅地建物取引の専門家である宅建業者の知識を活かし、
適切な助言や指導を期待しています。
仲介業者が売買契約書の作成や立会いを行うと、
単に立会人としての役割にとどまらず、
宅建業法2条2号にいう「媒介をする行為」に該当するとされます。
したがって、仲介業者は重要事項説明書の作成や交付、
売買契約書等の書面の交付を義務付けられており、
取引物件の権利関係や法令上の制限についても調査し、
説明しなければなりません。
そのため、契約締結の場に立ち会っただけの仲介業者も、
特別な事情がない限りは契約当事者に対し、
業務上の一般的な注意義務を負うことになります(後羯宮崎地判昭58年12月21日参照)。
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〔契約締結に立ち会った仲介業者の調査義務が認められなかった事例]
【東京地判昭54.10.30判時946号78頁、 金融商事587号40頁】
(事案)
買主Xが仲介業者数名の仲介により農地を宅地化し転売する目的で本件土地を買い受けたが、市街化調整区域に含まれることから本件土地を宅地化し転売することが事実上不可能になり、Xは売買契約を合意解除し、売主Y1、仲介者Y2 (非宅建業者) のほか売買に関与した複数の仲介業者Y3からY6に対し損害賠償請求をした。仲介業者のうちY6は、売買契約書を作成し、同書上ではY6のみが仲介人として表示された。
― 事案要約 ―
買主Xは複数の仲介業者の仲介により農地を宅地化し、
転売目的で土地を購入しました。
しかし、その土地が市街化調整区域に含まれているため、
宅地化し転売することが実質的に不可能となりました。
Xは売買契約を解除し、
売主Y1と仲介者Y2(非宅建業者)を含む
複数の仲介業者Y3からY6に対して損害賠償請求を行いました。
この中で、仲介業者Y6は売買契約書を作成し、
その契約書においてY6のみが仲介人として表示されていました。
(判旨)
Y6に対する請求棄却。 Y6の代表者は、Xに対し本件土地を紹介したけれども、その後間もなくXに助言していったんは本件土地の買い入れを断念させており、 その後、Xが改めてY1との間で売買契約を締結することについて何らの仲介行為を 行っていない。 ただ、契約の締結にあたり、Xの依頼により主として契約文書の作成 のため立ち会ったに過ぎないことが認められるから、 結局、 Y6 は、 本件売買契約書 上での表示にもかかわらず、Xが本件土地を最終的に買い受けるにあたり、もはや仲 介人としての責任を負うべき立場にはなかったものといわなければならない。したが って、Y6としては、本件土地が市街化調整区域内に含まれる可能性があるか否かに ついて調査し、 Xに説明するまでの義務がなかったものと解せざるを得ないから、Y 6がXに対しその旨を告げなかったとしても過失があったということはできない。
―判旨解説―
Y6に対する請求は棄却されました。
Y6の代表者は、Xに対して当初は本件土地を紹介したものの、
その後すぐにXに対し土地の購入を断念させる助言をしました。
その後、Xが改めて売主Y1との間で売買契約を締結する際には、
Y6は契約文書の作成のために立ち会っただけであり、
仲介業者としての責任は持たない立場であったと判断されました。
したがって、Y6は市街化調整区域内に含まれる可能性について調査し、
Xに説明する義務がなかったとされ、
Xに対してその旨を告げなかったことについて
過失があったとは言えないとされました。
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(他人の土地の売却に立ち会った仲介業者の調査義務違反が認められた事例〕 2 【宮崎地判昭58. 12. 21判夕528号248頁】
仲介業者Y2 は、本件土地の売買契約は既に売主Y1、買主X間で話合が成立した後に、売買契約書を作成するために形式的に仲介契約をしただけであり、実質上の仲介契約がないから仲介業者としての責任がない旨主張した事案において、裁判所は、Y2は自ら売買契約書の仲介業者、取引主任者欄に署名捺印した上、仲介料の支払いを受けているのであり、これによって仲介契約の成立が認められるから、これが実質上の仲介契約でないとはいえないし、たとえ既に売買の話合いがほぼ成立した後に立会人的立場で仲介として署名捺印したものであっても、業者の介入に信頼して取引するに至った第三 者Xに対しては信義誠実を旨とし、権利者の真偽につき格別に注意する等の業務上の一般的注意義務があるから仲介業者としての調査、確認義務に径庭がないというべきであって、Y2の右主張は失当である (最判昭36.5.26民集15巻5号1440頁参照)。
―要約―
この事例は、仲介業者Y2が他人の土地の売却に立ち会った際に、
売買契約書を作成するために形式的に仲介契約を結んだが、
実質的な仲介契約は成立していないと主張していました。
しかし、裁判所はY2が実際に売買契約書の仲介業者欄に署名や捺印し、
仲介料を受け取っていたことから、
実質的な仲介契約が成立していると判断しました。
立会人的立場で仲介として署名捺印したことが、
売買の話合いがほぼ成立した後であっても、
第三者である買主Xが信頼して取引を進める上で業者の介入に信頼していたとして、
Y2には業務上の一般的注意義務があるとされました。
そのため、仲介業者としての調査・確認義務があると判示され、
Y2の主張は認められなかったという結論です。
参考文献:国立国会図書館 「不動産取引における仲介」より
筆者:大脇和彦プロフィール
愛媛県松山市生まれ
マンションデベロッパー、会計事務所を歴して独立
不動産コンサルティングとエージェント業務が主体。近年は太陽光発電所開発運営も
趣味は、土地巡り・街巡り・山巡りを兼ねたドライブ(得意笑)、筋トレ(昔はオタク)
好きなこと言葉・・・積小為大、虚心坦懐