不動産仲介業務の現状と課題 5.仲介と情報提供 (その3)
不動産仲介手数料を節約、削減したい方向けに仲介サービスを提供しているトータルマネジメントです
3 競売物件の紹介
仲介業者が裁判所における
競売手続進行中の宅地建物(競売物件)の売買を仲介する場合、
これを競売物件の“仲介”と呼ぶことがあります。
しかし、これは通常の不動産仲介とは異なり、
売主と買主間の取引条件交渉や調整は含まれません。
競売手続は、抵当権者からの申立てに基づき
裁判所が売却手続を進め、
売却価額を決定し、
入札の結果最高価買受人を決定するものです。
したがって、仲介業者が価格や条件を交渉する余地はありません。
このような行為は
実質的には競売物件の買受け代行業務であり、
不動産仲介とは異なり、
宅建業法の規制の対象外とされます。
競売物件は、
これまで競売プローカーしか取り扱ってこなかったために、
その評判はあまり良くなかったです。
しかし、民事執行法の改正(期間入札の導入など)を機に、
少しずつ一般の方々による
競売物件の購入が行われるようになりました。
競売物件は、中古物件の市場価格(実勢価格)に比べて
売却価額が低いことや、
住宅ローンの利用も可能になったこと(民事執行法82条2項)が、
一般の方々にとって魅力的な要因とされています。
一方で、強制競売の場合、
物件の詳細な情報が限られており、
所有者から隣地との境界の
指示説明を受けることなどが難しい状況です。
民事執行法の改正により内覧制度が設けられましたが、
その実効性はまだ不明確です。
また、競売物件には賃借人や不法占拠者がいる場合、
買受人は買受け後に
引渡命令手続きを行わなければならないなど、
高いリスクが存在します。
競売物件の買受けを代行して
仲介報酬相当額を得ている宅建業者もいますが、
買受人に対してリスクを事前に十分に説明せずに
手続きを進め、紛争が発展する例も見受けられます。
【岡山地判昭54. 9.27下民集30巻 9~12号437頁、 判時959号117頁、 判夕407号100頁、 金融商事595号42頁】
〔事案〕
仲介業者X は、 Yに競売物件を紹介し、 登記簿謄本の取り寄せ、下見の上執行官に境界確認までして、Yを現地案内し、 競売手続の説明をしてYに本件競売物件を買い受けさせた後、 XはYに対し報酬告示の最高額を請求した。
― 事案要約 ―
仲介業者Xは、競売物件をYに紹介し、
登記簿謄本の取得や現地下見、
執行官との境界確認まで行い、
競売手続の説明を行ってYに競売物件の購入を促しました。
その後、XはYに対して報酬の最高額を請求しました。
【判旨】
原判決変更、一部認容。仲介契約とは、他人間の不動産売買等の法律行為の媒介、すなわち取引締結の機会を作り、またはその成立の促進、あっせんをすることを目的とし、受託者は、媒介を依頼されて取引契約の成立に尽力する義務を負い、委託者は、契約の成立に対して報酬を支払うという契約であり民事仲立と解される。 競売による物件取得の過程においては、競売開始決定後、競売期日とともにその不動産の告示、最低競売価額等を記載した公告がなされ、誰でも競売物件の存在、競落取得価額の一応の目安を知ることができる建前になっており、競落希望者は競売手続に参加して最高競売価額を申出れば競落することができ、その間には手続の性質上私人間の普通売買のように売主側と価額等の諸条件の交渉をする仲立の余地がない。 委託者に競売物件を競落取得させるために尽力し、その結果受託者が報酬請求権を取得するためには、仲介契約とは別個の契約、すなわち競売物件の情報提供、物件調査、案内ないし競売手続の補佐あるいは受任等を目的とし、その報酬支払を約する契約の成立が必要である。Xの通常の仲介契約に基づく報酬請求権は主張自体失当であるが、仲介契約とは別個の前記契約をも主張しているものと解し、Yが競売物件である本件宅地建物の案内を希望し、Xがこれを承諾してYを現地に案内し、説明をなした時点において仲介契約に付随するがこれとは別個の契約として、両名間に競売物件の情報提供、物件調査ないし案内を目的とする準委任契約が成立したものと認めることができる。報酬についての合意を認めるに足る証拠はないものの、商法512条に基づき、X は、右契約の履行が競落に寄与した割合によりYに対し相当額の報酬を請求することができる。右報酬額は、報酬告示によるべきものではなく、準委任契約の履行に要する労力、知識に相応するものであるべきところ、Xは、本件宅地建物の登記簿謄本を取り寄せ、これを下見し境界まで調査したうえYを現地に案内し本件宅地建物内外を見分させて紹介し、かつ競売手続の説明をしたのであるから右報酬額は、本件物件についての情報の価値、案内や説明に要した労力、費用等競落のために寄与した諸般の事情を考慮して金3万円を下らない。
―― 【判旨要約】 ――
元の判決を変更し、一部を認める。
仲介契約は、不動産取引を仲介し成立を促進する契約であり、
媒介者には契約の成立に向けた努力が求められ、
委託者はこれに対し報酬を支払う。
競売物件の取得は公告により知れるものであり、
競売手続には仲介の余地がない。
競売物件の取得に向けた尽力には、
別途の情報提供や調査などの契約が必要である。
Xの通常の仲介契約に基づく報酬請求は成立しないが、
競売物件の情報提供としての準委任契約が成立。
報酬の合意は証拠不十分だが、
商法512条に基づき、労力と寄与に応じた報酬請求が可能。
報酬は報酬告示によらず、
労力と費用を考慮して金3万円以上と判断。
** 判旨解説 **
仲介契約とは、他人間の不動産売買等の法律行為の媒介、
すなわち取引締結の機会を作り、
またはその成立の促進、
あっせんをすることを目的とし、
受託者は、媒介を依頼されて
取引契約の成立に尽力する義務を負い、
委託者は、契約の成立に対して報酬を支払うという契約であり
民事仲立と考えられます。
競売による物件取得の過程においては、
競売開始決定後、競売期日とともにその不動産の告示、
最低競売価額等を記載した公告がなされ、
誰でも競売物件の存在、
競落取得価額の一応の目安を知ることができる
建前になっています。
競落希望者は競売手続に参加して
最高競売価額を申出れば競落することができ、
その間には手続の性質上
私人間の普通売買のように
売主側と価額等の諸条件の交渉をする仲立の余地がありません。
委託者に競売物件を競落取得させるために尽力し、
その結果、受託者が報酬請求権を取得するためには、
仲介契約とは別個の契約、すなわち競売物件の情報提供、
物件調査、案内ないし競売手続の補佐
あるいは受任等を目的とし、
その報酬支払を約する契約の成立が必要です。
Xの通常の仲介契約に基づく報酬請求権は
主張自体正当ではありませんが、
仲介契約とは別個の前記契約をも
主張しているものと考えられます。
Yが競売物件である本件宅地建物の案内を希望し、
Xがこれを承諾してYを現地に案内し、
説明をなした時点において仲介契約に付随します。
これとは別個の契約として、
両名間に競売物件の情報提供、
物件調査ないし案内を目的とする
準委任契約が成立したものと認めることができます。
報酬についての合意を認めるに足る証拠はないものの、
商法512条に基づき、X は、
右契約の履行が競落に寄与した割合により
Yに対し相当額の報酬を請求することができます。
報酬額は、報酬告示によるべきものではなく、
準委任契約の履行に要する労力、
知識に相応するものであるべきです。
Xは、本件宅地建物の登記簿謄本を取り寄せ、
これを下見し境界まで調査したうえ
Yを現地に案内し本件宅地建物内外を見分させて紹介し、
かつ競売手続の説明をしたわけですから、
報酬額は、本件物件についての情報の価値、
案内や説明に要した労力、
費用等競落のために寄与した諸般の事情を考慮して
金3万円を下らないものではありません。
参考文献:国立国会図書館 「不動産取引における仲介」より
筆者:大脇和彦プロフィール
愛媛県松山市生まれ
マンションデベロッパー、会計事務所を歴して独立
不動産コンサルティングとエージェント業務が主体。近年は太陽光発電所開発運営も
趣味は、土地巡り・街巡り・山巡りを兼ねたドライブ(得意笑)、筋トレ(昔はオタク)
好きなこと言葉・・・積小為大、虚心坦懐