不動産仲介業務の現状と課題 5.仲介と情報提供 (その4)

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4 契約解除の仲介

 

宅建業者は、賃貸借契約の成立に向けてではなく、

その契約の解消(立退き交渉等)に向けて

借主と交渉し尽力することがあります。

 

この場合でも、解約合意の成立という観点からすれば、

仲介に該当する可能性も考えられます。

 

しかし、宅建業法の制定目的や免許制度の趣旨、

宅地建物取引業(仲介業も含む)

に対する業務規制(35条、37条等)を考慮すると、

宅建業法が言う媒介(仲介)は、

売買・賃貸借等の契約の成立に向けて

仲介活動を行うことであり、

契約の解約合意の成立に向けての仲介活動は

含まれないと考えるべきです。

 

商法における仲立営業も、

契約解消の仲立は含まれないものとされています。

 

なお、建物賃貸借契約の解消を目指す媒介によって生じた債権が、

宅建業法64条の8第1項で言う

「宅地建物取引によって生じた債権」に該当するかどうかが

争われた事案については、

関連して東京地方裁判所の判決(平成元年11月27日)が

引用されていますが、この点に疑問が投げかけられています。

 

【東京地判平元。 11. 27判時1359号85頁、 判夕737号226頁】

〔事案〕

建物所有者Aは賃借人Bに店舗を賃貸しBはこれをCに転貸していた。 宅建業者Dは、Aから、 AB間の賃貸借契約解消について媒介の委託を受けBと交渉をしたが解約の合意は成立しなかった。 Dは、Aから建物を買受けCと交渉し建物の明渡しを受けた上でこれをEに売却しEは建物を取り壊した。 Bは、建物賃借権の消滅がDの不法行為によるものであるとして、Dに対し損害賠償を請求し一部認容する判決 (450万円)を得た上でBの相続人Xが、宅地建物取引業保証協会Yに損害賠償請求権について弁済対象債権の認証の申出をした。Yがこれを拒否したため、XはYに対し認証請求訴訟を提起した。BのDに対する損害賠償請求権が 「その取引により生じた債権」(宅建業法64条の8第1項)に該当するかどうかが争われた。

 

―[事案要約]―

建物所有者Aは賃借人Bに店舗を貸し、

BはそれをCに転貸していました。

 

宅建業者Dは、AからB間の賃貸借契約解消に関する媒介の依頼を

受け、Bと交渉しましたが解約の合意には至りませんでした。

 

その後、DはAから建物を買受けてCと交渉し、

建物を取得しました。

 

その後、Dは建物をEに売却し、

Eは建物を取り壊しました。

 

賃借人Bは、建物賃借権がDの不法行為によって

消滅したと主張してDに対し損害賠償を請求し、

一部が認められました(450万円)。

 

その後、Bの相続人であるXは、

宅地建物取引業保証協会Yに対して

損害賠償請求権の認証を申請しましたが、

Yがこれを拒否したため、

XはYに対して認証請求訴訟を起こしました。

 

この訴訟では、賃借人BのDに対する損害賠償請求権が

「その取引により生じた債権」(宅建業法64条の8第1項)に

該当するかどうかが争われています。

 

【判旨】

請求棄却。貸借の解約の媒介をすることは、貸借の媒介に含まれ、これに関して債権を取得した者は、弁済業務保証金の弁済を受けることができる。宅建業者がそ の所有する宅地建物を他に売買するに当たり、当該宅地建物に係る貸借権等を消滅させるために対価の支払を合意した場合において、右合意の相手方である貸借権者等は、宅地建物の売買に関して債権を取得した者として、弁済を受けることができる。Dは、転借人との間に明渡しの合意を成立させたものの、賃借人Bとの間では明渡しの合意に至らず、Bは、Dによる本件店舗の質の解約の媒介によって債権を取得したものということができず、また、所有権を取得し、Aの地位を承継したDが本件建物をEに売却するに当たっても、賃借権の消滅に関して合意が成立しておらず、宅地建物の売買により債権を取得したものということはできない。 BのDに対する債権は 「その取引により生じた債権」に当たるものと解することはできない。

 

――【判旨要約】――

請求は却下。

 

貸借契約の解約媒介は貸借媒介に含まれ、

それに関連した債権を取得した者は

弁済業務保証金を受ける資格がある。

 

宅地建物所有者が自身の所有物を他者に売却する際に、

関連する貸借権を消滅させるために支払いを合意する場合、

その貸借権者も宅地建物の売買に関連した債権を

取得した者として、弁済を受ける資格がある。

 

しかし、実際にはDは明渡しの合意を転借人と成立させたものの、

賃借人Bとは合意に至らず、

BのDによる店舗の賃借契約解約媒介によって

債権を得たとは言えない。

 

また、Dが所有権を取得し、

建物をEに売却する際も、

Bの賃借権の消滅に関する合意が成立していなかったため、

BのDに対する債権は

「その取引により生じた債権」とは認められない。

 

***判旨解説***

この判決では、建物所有者Aが賃借人Bに店舗を貸していました。

その後、宅地建物業者DがAから、

Bとの賃貸契約を解消する交渉を委託されましたが、

解約合意には至りませんでした。

その後、DはAから建物を購入し、

それを別の人Eに売却しました。

 

このとき、BはDに対し損害賠償請求を行い、

一部認められて450万円を受け取りました。

 

その後、Bの相続人であるXは、

宅地建物業者保証協会Yに対し、

損害賠償請求権の認証を求めましたが、

協会は拒否しました。

 

そこでXは認証請求訴訟を提起しました。

 

この判決では、BのDに対する損害賠償請求が

「その取引により生じた債権」として

認められるかどうかが争われています。

 

しかし、判決は、

DがBの店舗の賃借契約解消の交渉を行ったとしても、

それは「その取引により生じた債権」とは言えないと

判断しました。

 

また、Dが建物を購入しEに売却する際も、

Bの賃借権の消滅に関する合意が成立していなかったため、

BのDに対する債権は「その取引により生じた債権」とは

認められないと述べています。

 

そのため、Xの認証請求は却下されることになりました。

 

参考文献:国立国会図書館 「不動産取引における仲介」より

 

 

 

 

筆者:大脇和彦プロフィール

愛媛県松山市生まれ
マンションデベロッパー、会計事務所を歴して独立
不動産コンサルティングとエージェント業務が主体。近年は太陽光発電所開発運営も
趣味は、土地巡り・街巡り・山巡りを兼ねたドライブ(得意笑)、筋トレ(昔はオタク)
好きなこと言葉・・・積小為大、虚心坦懐