不動産媒介契約とは何か(その4)

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6 不動産媒介契約の性質と特徴 

 

  • 法的性質

 

不動産媒介契約は、売買・賃貸借等の契約当事者の一方又は双方が

媒介業者に契約の成立に向けて尽力する事実行為を依頼し、

媒介業者がこれを受けるものであります。

 

法的性質は準委任であり、委任の規定が準用されます(民法656条)。

 

媒介は契約類型としては委任そのものとは異なるため、

不動産媒介の特質に照らし、準用される規定は、法644条(受任者の注意義務)、

645条(受任者の報告)、646条(受取物の引渡し)、

650条1項(受任者による費用償還請求)、

651条(委任の解除)、653条(委任の終了事由) などです。

 

  • 媒介契約における結果の実現

媒介は、依頼者と媒介業者との人的な信頼関係を基礎に、

媒介業者が、他人間の契約の実現という結果に向けて

最善の注意を尽くして任務を遂行すること自体が契約目的であります(純粋役務、手段債務)。

 

→ 純粋役務(じゅんすいやくむ)

 

純粋役務とは、物を提供することではなく、

一定の行為や労働、専門的なサービスを提供する契約を指します。

 

具体的には、美容院の髪のカット、弁護士の法律相談、

医者の診察などが純粋役務の例です。

 

提供されるのは物ではなく専門知識や技術であり、

その対価は契約に基づいて支払われます。

 

純粋役務は契約の内容が主要な要素であり、提供されるサービスの品質や専門性が重要です。

 

→ 手段債務(しゅだんさいむ)

 

手段債務とは、ある特定の目的や結果を達成するために

特定の手段や努力を行うことが契約で求められている債務です。

 

手段債務を果たすことで、特定の成果や結果を達成することが期待されています。

 

手段債務を果たすためには、合理的な努力や注意を払うことが求められます。

 

例えば、運送業者が荷物を適切に届けるための努力をすることが手段債務の例です。

 

成果が重要なのではなく、手段を適切に行うことが重要な契約形態です。

 

※これらの概念は、契約や法律において重要な役割を果たし、

契約の内容や当事者の責任を明確にするために使用されます。

 

媒介業者は、依頼者のために契約の成立に向けて最善を尽くさなければなりません (成約実現義務)、

他人間の契約の成立という結果の実現義務 (成約実現義務) を負うわけではありません。

 

媒介業者が成約に向けて最善を尽力しても、

依頼者の希望する物件や取引の相手方を探索できるかどうかは不確かで、

媒介業者が依頼者に対し成約を保証するものではありません。

 

媒介業者が依頼者の希望する

取引条件に見合った取引物件や取引の相手方を見つけても、

売買契約を締結するか否かは売主と買主の自由意思に委ねられるから、

契約の成立 (結果の実現) は、媒介契約における債務の内容ではありません。

 

さらに媒介業者の媒介によって成立した売買契約に基づき

発生した買主の代金支払義務と売主の所有権移転義務は、

当事者である売主と買主がそれぞれの責任で履行すべきもので、

媒介業者が当事者の契約の履行を保証するものではありません (東京地判平21・4・8)。 

 

ちなみに、「決済、引渡し」は、媒介業者において、

「目的物件の引渡しに係る事務の補助」 業務として位置づけられます。

 

◆成果完成型の準委任 

媒介契約は、媒介業者が媒介により契約成立という結果を実現することは

債務の目的ではありません。

 

しかし、媒介報酬の発生に焦点を当てると、

媒介業者の媒介によって当事者間の契約の成立という結果が

実現しなければ報酬請求権が発生しません。

 

媒介業者が当事者の間に立って契約成立に向けて尽力し、

その結果、契約の成立という成果が達成できれば報酬請求権が発生する

“成果完成型の準委任”であります。

 

いわゆる成功報酬であり、 商法550条1項が類推適用されます。

 

不動産媒介契約の性質は民事仲立と解され、

民法には民事仲立の規定はありませんが

「受託者は媒介を依頼された取引契約の成立に尽力する義務を負い、

委託者は契約の成立に対して報酬を支払うという仲立契約の性質は、

商事仲立であると民事仲立であるとで差異はないと考えられるから、

商事仲立人の報酬請求権に関する商法550条1項の規定は、

民事仲立についてもこれを類推適用すべきもの」(東京地判昭52・12・7) とされています。

 

ちなみに、報酬告示第二は、

媒介により成立した売買に係る代金の額を基準として媒介報酬額を算定し、

標準媒介契約約款は成功報酬であることを確認的に定めています

(専任約款8条1項、専属約款8条1項、一般約款10条1項)。 

 

3.雇用・請負との相違 

役務の提供を主な内容とする契約類型は、

役務提供契約(労務供給契約)といわれます。

 

わが国の民法において役務提供契約として規定されている典型契約は、

雇用、請負、委任、寄託の4種です。 

 

◆媒介と雇用 

雇用は、働くこと自体が目的で、

雇い主が働く人に対して指示を出すことができるという特徴があります。

 

しかし、雇用の場合、成果が達成されるまでが義務ではありません。

 

一方、媒介の性質は準委任です。

 

媒介業者は、依頼者からの指示に従いながら、

独自の専門的な判断を使って取引の仲介を行います。

 

ここでは雇用のような指示命令関係はありません。

 

◆媒介と請負 

 

請負と媒介は、報酬がもらえる点で似ていますが、その中身は少し違います。

 

請負は「仕事の完成」に基づいて報酬をもらう仕組みです。

 

媒介は「契約の成立」によって報酬を受け取る形式です。

 

媒介には請負的な側面もあるとされます。

 

ただし、請負と媒介には大きな違いもあります。

 

請負人は「仕事の完成」を約束しており、

その完了を約束しなければなりません。

 

一方で、媒介業者は「契約の成立」を保証する義務はありません。

 

媒介業者は「契約の成立」が条件であり、

実際に成約するかどうかは不確かです。

 

売買や賃貸借の契約が成立しなかったからといって、

媒介業者が義務を果たさなかったわけではありません。

 

成果の達成は報酬を請求するための条件に過ぎないのです。

 

 

◆媒介と委任 

 

委任と準委任は、他人に仕事を頼むことです。

 

その仕事の処理方法は、受任者(依頼された人)が決めるものです

(民法643条、644条、656条)。

 

媒介も同様で、依頼者の指示に従って仕事をするもので、

媒介業者がどう処理するかを決める裁量があります。

 

ただし、委任は「法律行為」を頼むのに対して、

媒介は売買などの契約の成立を促進するための

交渉などの事実行為を依頼するものです。

 

また、委任や準委任は通常無償です(民法648条1項)。

 

改正民法では、「報酬をもらう約束がある場合、

その成果が引き渡しを要する場合は、報酬は成果の引き渡しと同時に支払わなければならない」

という規定ができました(民法648条の2第1項、成果完成型の委任と言います)。

 

ただし、媒介の場合、

宅地建物取引業者が売買や賃貸借の契約を成立させるために尽力し、

成果が得られれば、報酬を受ける権利があります。

 

報酬の具体的な金額については、媒介業者が証拠を出す必要があります。

 

 

参考文献:国立国会図書館 「不動産媒介契約の要点解説」より

 

 

 

筆者:大脇和彦プロフィール

愛媛県松山市生まれ
マンションデベロッパー、会計事務所を歴して独立
不動産コンサルティングとエージェント業務が主体。近年は太陽光発電所開発運営も
趣味は、土地巡り・街巡り・山巡りを兼ねたドライブ(得意笑)、筋トレ(昔はオタク)
好きなこと言葉・・・積小為大、虚心坦懐