不動産媒介契約とは何か(その5)
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7 片手媒介と双方媒介
不動産媒介の形態として、
媒介業者が一方当事者からのみ媒介の依頼を受ける片手媒介
(“片手” 仲介)と双方当事者から同時に媒介の依頼を受ける双方媒介
(“両手”仲介)の二つの形態があります。
(1)片手媒介
片手媒介には、媒介業者が当事者の一方から媒介の依頼を引き受け、
他方当事者 はみずから媒介業者と交渉する場合(後記 I、II)と、
当事者双方がそれぞれ別の媒介業者に媒介を依頼する場合
(後記Ⅲ)があります。
売買の媒介を例にとると、 下記の3形態となります。
◆片手媒介の形態
I 売主が媒介業者に売却の媒介を依頼した場合
II 買主が媒介業者に購入の媒介を依頼した場合
III 当事者双方がそれぞれ別の媒介業者に媒介を依頼した場合
◆片手媒介と媒介業者・売主・買主の三者関係
片手媒介(依頼者が売主または買主)は、
次のような法律関係となります。
i)売主と買主間は売買契約関係
i)媒介業者と依頼者は媒介契約関係
血)媒介業者と取引の相手方とは非委託関係
(2) 双方媒介
双方媒介とは、一つの売買取引について、
媒介業者が売主・買主双方から同時に
媒介の依頼を引き受ける形態をいいます。
媒介契約関係は、媒介業者と売主、媒介業者と
買主との間でそれぞれ生じます。
◆双方媒介と双方代理の違い
双方代理は、本人のあらかじめの許諾が必要です
(民法108条1項ただし書)。
代理は、代理人の行為によって本人に権利義務が帰属することから、
双方代理においては「代理人が利益相反状況に置かれ、
本人ないしは一方の本人の利益が害されるおそれが強い」
ことによります。
双方媒介は、宅建業法では禁止されていません。
双方代理が両当事者の代理人として
売買等の契約を締結するものであるのに対し、
双方媒介は、媒介業者が両当事者の間に立って
売買等の契約成立に向けて尽力することによります。
そして、媒介は、最終的に売買契約を締結するかどうかは
両当事者の自由な意思に委ねられます。
媒介業者は、契約締結に向けて媒介活動を進める過程において、
両当事者が契約を締結するかどうかを
自由な意思に基づき適切に判断できるような環境作りが必要です。
両当事者に対しては、取引物件に関して正確な情報を提供し、
取引条件に関する交渉・調整を公平中立に進めなければなりません。
双方媒介は、媒介業者が売主と買主、
貸主と借主という契約当事者の双方から
同時に媒介の依頼を受け、
依頼者双方との間に媒介委託・受託関係があります。
媒介業者は、両当事者に対して等しく善管注意義務
(民法656条、644条)を負い、媒介委託の本旨に従って、
契約成立に向けて最善を尽くさなければなりません。
ここにいう善管注意義務は、
媒介業者として一般に要求される水準の注意ですから、
片手媒介における善管注意義務と共通します。
ただ、片手媒介では、いずれか一方の依頼者の利益を図ることが
求められますが、双方媒介においては、
いずれか一方の依頼者に偏らず、
依頼者双方の利益を公平に調整しながら成約に向けて
媒介活動を進める必要があります。
◆“両手志向”と双方媒介の課題
双方媒介は、両当事者間で契約が成立すると、
当事者双方に対し報酬を請求できるという点で、
商事仲立(商法550条2項参照)に近い特徴があります。
商事仲立では、
仲立人は「委託者のみならずその相手方当事者に対しても、
公平にその利益を図る義務を負う。
その代わりに、相手方当事者に対しても報酬の支払を請求できる
(商法550条2項)」。
対照的に、双方媒介では、成約すれば当事者双方から
報酬を得られるため、媒介業者は、
当事者双方から媒介の依頼を受けようとする
“両手志向が強調されます。
双方媒介は禁止されているわけではありませんが、
実際の取引にはさまざまな課題があります。
不動産媒介契約では、
売買や賃貸借契約が成立した場合に報酬請求権が発生し、
成約しない限りは、どれだけ契約成立に向けて尽力しても
報酬請求は認められません。
双方媒介では、
媒介業者が当事者それぞれの事情
(売り急ぎ、買い急ぎなど、成約意欲や予算など)を
理解しているため、
当事者双方からの報酬獲得を優先し
成約を追求するケースが見られます。
この結果、一方の当事者が有利な条件で
成約できる可能性があるにもかかわらず、
不必要な譲歩を求めたり、
物件に関するマイナス情報を伝えなかったりすることがあります。
これは片方の当事者に損害をもたらす可能性があり、
公平な媒介業務とは言えません。
被害を受けた当事者との関係では、
善管注意義務や忠実義務の違反が懸念されます。
※「善管注意義務」・・・契約や代理関係において、当事者が相手方の利益を害しないように注意深く行動する義務です。
この義務に従って、当事者は誠実かつ公正な行動を取り、相手方の権益を守る努力をしなければなりません。
この注意義務の違反は、法的な責任を引き起こす可能性があります。
※「忠実義務」・・・契約や代理関係において、当事者が誠実で正直な態度で行動し、相手方の信頼を裏切らない義務です。
この義務に従って、当事者は自身の利益だけでなく相手方の利益も考慮し、誠意を持って契約や取引を履行する必要があります。
忠実義務を守らない場合、法的な責任や契約違反が生じる可能性があります。
◆専任媒介契約と双方媒介
売買の媒介においては、売主の媒介業者に対する報酬は、
売買代金の一部をもって充てられることが多く、
売主も媒介報酬の額を勘案して、
媒介業者に対し実質的な手取り額を指定します。
媒介業者は、売主の希望する手取り額がわかっているため、
媒介報酬を確保するために
買主に売買代金の増額を求めることがあります。
双方媒介において、売主の実質的な手取り額の要求を伏せて、
売主が売買代金の増額を求めていることを告げ、
売主の希望する売買代金額に沿って買主を説得する行為は、
媒介業者が自己の利益を図ることを目的として
他方の依頼者である買主の利益を害するものとして
善管注意義務・忠実義務に違反し、債務不履行となります。
買主の専属専任媒介業者が取引の相手方(売主)からも
報酬を受領するために、依頼者(買主)に双方媒介の事実を伏せ、
事前相談もせずに買付価格を加算して交渉し
売買契約の締結を媒介した事案について、
媒介業者は、相手方からも報酬を受け取ることを説明し
依頼者の同意を得る必要があるとした裁判例があります。
参考文献:国立国会図書館 「不動産媒介契約の要点解説」より
筆者:大脇和彦プロフィール
愛媛県松山市生まれ
マンションデベロッパー、会計事務所を歴して独立
不動産コンサルティングとエージェント業務が主体。近年は太陽光発電所開発運営も
趣味は、土地巡り・街巡り・山巡りを兼ねたドライブ(得意笑)、筋トレ(昔はオタク)
好きなこと言葉・・・積小為大、虚心坦懐