不動産Q&Aシリーズ 相続相談Vo.5_「不動産の購入にかかる費用を予測することはできるか」24年6月号
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不動産の購入にかかる費用を予測することはできるか?
<QUESTION>
相続した不動産を売りたいのですが、
父が何十年も前に購入したため、
当時の契約書が見つかりません。
ただし、概算取得費の5%で計算すると高額な税金を支払うことになり、
それは避けたいです。
父が生前に『4,000万円で買った』と言っていた記憶がありますが、
取得費を4,000万円と見なして計算することはできるのでしょうか?
<ANSWER>
記憶だけで購入費用を確定するのは難しいですが、
いくつかの方法で検討する余地はあります。
注意:当記事は推計取得費の正確性を保証するものではありません。
実際の申告で推計を用いる場合は必ず専門家に相談し、
税務署否認リスクを承知した上で最終判断を行うようにしてください。
【推計は可能なのか?】
不動産の取得費はどうやって推計する?
不動産を売却する際、譲渡所得税を計算するために、
物件の「取得費」を知ることが重要です。
しかし、購入時の契約書や記録が手元にない場合、
この取得費をどのように推計すれば良いのでしょうか?
実は、法律上、取得費の推計に関する明確なルールは存在しません。
それでも、税務当局が取得費を推計する際に使える指標は存在します。
市街地価格指数を使った取得費の推計
平成12年(2000年)11月16日の裁決で、
国税当局が一般財団法人日本不動産研究所が公表する
「市街地価格指数」を利用して取得費を推計しました。
この方法を国税不服審判所も認めました。
つまり、取得費を推計すること自体が不可能だと否定されるわけではなく、
合理的な方法と結果があれば認められる可能性があるのです。
では、合理的な推計方法とは?
問題は、何が「合理的な推計」とされるかです。
不動産は他の財産と比べて、取引ごとに個別の事情が多く絡みます。
したがって、単に市場の指標や経済データを使って算出した数字が
「合理的」だとすぐに判断するのは難しい場合もあります。
推計の際に考慮すべきポイント
・ 購入時の市場価格**: 購入当時の市場価格データや類似物件の価格を参考にする。
・ 物価や経済の変動**: 購入時から現在までの物価の変動を考慮に入れる。
・ 専門家の意見**: 不動産評価の専門家に相談して、
取得費を合理的に推定する方法を模索する。
【合理性がある推計とは?~指標を用いた推計~】
不動産を売却する際に大切なのは、
まずその不動産がどのようなものかを正確に把握することです。
不動産の種類や用途によって、
取引価格や評価方法が大きく異なるため、
最初に確認しておきましょう。
- 不動産の種類を理解する
不動産にはいくつかのタイプがあります。以下に主な種類を挙げます:
・ 更地 何も建っていない土地。
・ 建物付き土地 建物が建っている土地。
・ 借地権 他人の土地を借りてその上に建物を建てる権利。
- 不動産の用途を確認する
土地の用途も価格に影響を与えます。
同じ土地でも、用途が異なると評価も変わります。
・ 宅地 住宅を建てるための土地。
・ 山林 森や山の土地。
・ 農地 農作物を育てるための土地。
用途が異なれば、適用される価格指標や取引条件も変わってきます。
- 市街地価格指数の使い方
市街地価格指数は、市街地の住宅用地や商業地、
工業地の価格動向を示す指標です。
しかし、これを使って取得費を推計する際には、いくつかの注意点があります:
・ 都市部の住宅地**: 市街地価格指数は、主に都市部の住宅地に適用されるため、
地方の山林や農地などには適していません。
・ 用途の変化 購入時は農地だったが、
現在は住宅地になっている場合、当時の価格指標との比較が難しいです。
- 購入の経緯を考慮する
購入時の背景や取引相手も、取得費の推計に影響を与える重要な要素です。
・ 親族間の取引 親族間での取引は、
市場価格とは異なる要素が反映されることが多く、
一般的な価格指標の適用が難しいです。
・ 買換特例 特定の税法のルール(買換特例など)が適用される場合、
通常の取得費計算とは異なる方法が使われます。
- 取得費の推計方法
不動産の取得費を合理的に推計するためには、以下の点を考慮することが重要です:
- 取得から売却までの経緯を確認:
・ どのようにして取得したか(購入、相続、贈与など)
・ 取得後の使用状況(自宅、賃貸、放置など)
・ 売却に至るまでの過程(市場の変動や用途の変更など)
- 市場データの比較:
・ 購入時と売却時の市場価格を調べ、時期に応じた価格変動を考慮する。
・ 類似物件の取引価格を参考にする。
- 専門家の助言を受ける
・ 不動産評価の専門家に相談して、取得費の推計についてアドバイスを受ける。
【指標以外の推計材料はあるか?】
不動産を売却する際、取得費を正確に推計することは重要です。
特に、購入時の契約書などがない場合は、
他の情報を活用して取得費を推計する必要があります。
では、どのような材料を使って取得費を推計すれば良いのでしょうか?
- 記憶を活用する
「父が当時4,000万円で購入した」といった記憶がある場合、
それ自体は証拠としては弱いですが、
推計値の合理性を判断するための参考になります。
具体的には:
・ 記憶と指標の比較 市街地価格指数などの指標で推計された値が、
記憶の価格に近ければ、
その推計値は当時の実際の価格に近いと考えることができます。
・ 記憶と大きく異なる場合指標で算出された値が記憶と大きく異なる場合、
その推計値は信頼性が低いかもしれません。
この場合、他の材料を探して合理的な推計を補強する必要があります。
- 過去の資料を探す
過去の記録や資料は、取得費の推計に非常に有用です。
以下のようなものが役立つかもしれません:
・ 当時のメモ書き購入時の価格や条件が書かれたメモがあれば、
それは重要な証拠となります。
・ 預金の出金記録物件購入時に支払った金額の記録が
銀行の取引明細に残っていれば、それを参考にできます。
・ 分譲当時のパンフレット購入当時の販売パンフレットには、
価格や物件の概要が記載されていることが多く、参考になります。
・ 登記簿に記載された抵当権設定額 購入時に設定された抵当権の額は、
当時の購入価格の参考になります。
- 他の推計方法
過去の取引記録や公的なデータを用いることも推計には有効です。
・ 類似物件の過去の売買価格購入時期が近い類似物件の売買価格を調べることで、
参考になる推計が可能です。
・ 公的な不動産評価データ 地域の不動産評価データや
地価公示価格などを参考にすることで、当時の価格を推測する材料になります。
・ 物価や経済の変動データ 購入時から現在までの物価や
経済状況の変動を考慮して、価格を調整する方法もあります。
【必ず専門家に相談しましょう】
取得費の推計におけるリスクと専門家の重要性
不動産を売却する際、取得費を推計することは避けられないプロセスです。
しかし、取得費の推計はどれだけ慎重に行っても、100%の確実性を持つことはほとんどありません。
このため、推計に伴うリスクについて理解し、適切な対策を講じることが重要です。
取得費の推計とリスク
不動産の取得費を推計する際、以下のようなリスクが考えられます:
1.否認のリスク 税務署が推計した取得費を認めない場合、
想定していたよりも高い税金を支払わなければならない可能性があります。
2.過少申告加算税 取得費の推計が認められずに過少申告と判断された場合、
追加の税金(過少申告加算税)が課されることがあります。
3.ペナルティのリスク 取得費の推計が大きくずれている場合、
追加の税金だけでなく、罰金などのペナルティが課される可能性もあります。
推計リスクを最小限にするために
取得費の推計に伴うリスクを最小限に抑えるためには、以下のアプローチが有効です:
1.多くの材料を収集する
取得費を合理的に推計するためには、可能な限り多くの資料や情報を集めることが重要です。
前述のように、記憶に基づく推定や過去の記録、指標を活用することで、推計の精度を高めることができます。
2.慎重に推計する 推計を行う際は、無理な数字を使わず、
できるだけ現実的で合理的な範囲内での推計を心がけることが大切です。
3.税務署との事前相談 推計に自信がない場合、税務署に相談して、
取得費の推計方法についてのアドバイスを受けることも考慮すべきです。
専門家のサポートを受ける
自分だけで取得費を推計するのは難しく、不安がつきものです。
このような場合、専門家の助けを借りることが最も効果的です。
- 不動産税務に詳しい税理士:
税理士は税務全般の専門知識を持ち、特に不動産取引に関する経験豊富な税理士は、
取得費の推計に関する適切なアドバイスを提供してくれます。 - 不動産評価の専門家:
不動産評価の専門家は、物件の市場価値や過去の取引データに基づいた合理的な推計を行う能力があります。 - 税務調査のサポート:
専門家は、税務調査が入った場合でも適切に対応し、
取得費の推計が正当であることを説明するサポートをしてくれます。
【まとめ】
不動産売却を考えている皆さん、ぜひこれらのポイントを参考にして、取得費の推計を進めてください。
そして、疑問や不安がある場合は、遠慮なく専門家に相談することをお勧めします。
月刊不動産2024年6月号より抜粋・編集
愛媛県松山市生まれ
マンションデベロッパー、会計事務所を歴して独立
不動産コンサルティングとエージェント業務が主体。近年は太陽光発電所開発運営も
趣味は、土地巡り・街巡り・山巡りを兼ねたドライブ(得意笑)、筋トレ(昔はオタク)
好きなこと言葉・・・積小為大、虚心坦懐