不動産Q&Aシリーズ 労務相談Vo.1_24年9月号
不動産Q&Aシリーズ 労務相談Vo.1
~社会保険(厚生年金保険・健康保険)の適用が拡大されます~
全日本不動産協会会員の不動産業者に向けた専門誌の記事を
一般個人向けにわかりやすく要約し直して、ブログにしています。
<QUESTION>
令和6年10月より、51人以上の企業では社会保険の適用対象者が拡大されると聞きました。
加入基準や実務上の留意点について教えてください。
<ANSWER>
2024年10月から、社会保険の適用対象者が拡大され、
従業員が51人以上いる企業では、
週20時間以上働く短時間労働者も社会保険に加入することになります。
これまで対象となっていたのは101人以上の企業でしたが、
新しい基準では、さらに多くの企業と労働者が対象になります。
この制度改正には、企業側・労働者側の両方にメリットとデメリットがありますので、
それぞれの視点から見てみましょう。
【企業の立場から見たメリットデメリット】
●メリット
- 従業員の福利厚生充実による働きやすい環境づくり
社会保険の適用により、
短時間労働者も年金や健康保険などの保障を受けられるようになります。
これにより、企業は従業員にとってより魅力的な職場環境を提供でき、
定着率の向上や優秀な人材の確保につながる可能性があります。
- 人材確保やモチベーション向上
社会保険の提供は、福利厚生の一環として魅力を高める要因となり、
特にパートタイムやアルバイトなどの短時間労働者にとって企業の魅力が増します。
これにより、企業のモチベーションや生産性の向上も期待できます。
●デメリット
- 保険料の負担増
短時間労働者の社会保険加入に伴い、
企業は労働者の給与に対して社会保険料の半額を負担する必要があります。
これにより、人件費が増加し、
中小企業にとっては経営コストの負担が重くなる可能性があります。
- 管理コストの増加
新たに保険手続きや労働時間の管理が必要となり、
特に従業員の数が多い場合、事務処理の負担が増えることが予想されます。
手続きが煩雑になることで、
業務効率が低下する可能性もあるため、事前に対応が求められます。
【労働者の立場から見たメリットとデメリット】
○メリット
- 年金や医療保障が受けられる
短時間労働者でも社会保険に加入することで、
将来的に年金を受け取れるようになりますし、
健康保険の適用範囲も広がります。
これにより、万が一の病気やケガの際にも安心して医療を受けることができます。
- 将来の生活への安心感が増す
社会保険に加入することで、老後の年金受給額が増えるだけでなく、
退職後も継続して保険制度を利用できるため、
将来への安心感が得られます。
特に、今後長期的に働く予定の方にとっては大きなメリットです。
- デメリット
- 給与の手取りが減少する可能性
社会保険料の支払いが発生するため、
加入後は手取りの給与が減少する可能性があります。
特にパートやアルバイトとして働く方にとっては、
家計への影響が気になる点かもしれません。
- 働く時間の制限を受ける可能性
週20時間以上働くことで社会保険に加入する条件が満たされますが、
それにより働く時間を調整しなければならない場合があります。
一部の労働者にとっては、
生活リズムや他の仕事とのバランスに影響が出ることも考えられます。
【51人以上の企業等とは】
2024年10月から、従業員数51人以上の企業で働く短時間労働者にも
社会保険が適用されるというルールが導入されますが、
実はここで言う「51人以上の企業等」とは、
単に企業全体の従業員数を指しているわけではありません。
「51人以上の企業等」とは、1年のうち6カ月以上、
厚生年金保険に加入している従業員が51人以上になると見込まれる企業を指します。
このような企業は「特定適用事業所」と呼ばれ、
社会保険の新しい適用基準に該当します。
では、どのような従業員が「厚生年金保険の被保険者」となるのでしょうか?
厚生年金保険の対象となるのは、以下のような従業員です:
・ 70歳未満でフルタイム勤務している人
・ 1週間の所定労働時間がフルタイム労働者の4分の3以上、かつ1カ月の所定労働日数も4分の3以上の人つまり、フルタイム勤務者や、フルタイムに近い時間数で働いている人が厚生年金保険の対象となり、その人数が51人以上になる企業が、今回の適用拡大の対象となります。
一方で、70歳以上の従業員で健康保険のみ加入している人は、このカウントには含まれません。
【短時間労働者とは】
社会保険の適用拡大:パート・アルバイトの方も対象に!
- 短時間労働者の条件
次の4つの条件を全て満たすと、社会保険の加入対象になります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 2カ月を超えて雇用される見込みがある
- 学生ではない
例えば、週20時間以上働いていて、
月に8.8万円以上の賃金がある場合は、
パートやアルバイトでも社会保険の対象となるということです。
- 賃金の考え方
賃金には基本給や手当が含まれますが、
残業代やボーナスは含まれません。
ですので、時給で働いている方は、基本的に支給される賃金が基準となります。
- 雇用期間の計算
雇用契約が最初2カ月以内でも、
「更新される可能性がある」と明示されている場合は、
2カ月を超えて働く見込みがあると判断されます。
- 学生の場合
学生でも休学中や定時制・通信制の学生であれば、
これらの条件を満たすと対象になる可能性があります。
一方、昼間の学生は一般的に社会保険の対象外ですが、
フルタイムに近い働き方をしている場合は例外として対象になることがあります。
【年金受給者を雇用した場合】
70歳未満で老齢厚生年金を受け取っている方でも、
前述の条件(週20時間以上、月額8.8万円以上など)を満たしている場合、
社会保険の対象となります。
この場合、「在職老齢年金制度」が適用され、
働いた分に応じて年金が一部または全部停止されることがありますので、注意が必要です。
【副業・兼業している方の取り扱い】
複数の職場で働く場合、全ての職場で社会保険に加入する必要があります。
この際、各職場で受け取る給料を合算して保険料を計算しますが、
どちらかの職場を「主たる事業所」として選び、
「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を年金事務所に提出する必要があります。
【加入判断の留意点】
適用拡大により新たに社会保険の対象になる方がいる場合、
企業側はその方の資格取得届を年金事務所に提出する必要があります。
具体的には、雇用契約上は週20時間未満でも、
実際の勤務が週20時間を超える場合、2カ月以上その状態が続けば、
3カ月目から社会保険に加入することになります。
同様に、賃金も2カ月連続で月額8.8万円以上となり、
その後も継続する見込みがあれば、3カ月目から対象になります。
ここで、残業代なども考慮されるため、賃金の計算には注意が必要です。
【定期的な確認が重要】
企業には、勤務実態に基づいた社会保険の適用を確認する義務があります。
たとえ雇用契約書上では加入要件を満たしていなくても、
実際の勤務状況によっては遡って保険に加入する必要が出てくることもあります。
年に一度は、短時間労働者の働き方を確認して、
適用範囲に該当するかどうかをチェックすることが重要です
月刊不動産2024年9月号より抜粋・編集
愛媛県松山市生まれ
マンションデベロッパー、会計事務所を歴して独立
不動産コンサルティングとエージェント業務が主体。近年は太陽光発電所開発運営も
趣味は、土地巡り・街巡り・山巡りを兼ねたドライブ(得意笑)、筋トレ(昔はオタク)
好きなこと言葉・・・積小為大、虚心坦懐