不動産仲介業務の現状と課題  仲介と代理(その2)

動産仲介手数料を節約、削減したい方向けに仲介サービスを提供しているトータルマネジメントです

 

 

2 売却仲介と販売代理

 

売却仲介と販売代理の異同

 

宅建業法が規制する代理は

宅地建物取引に関する代理を「業として」行う場合です。

 

典型的な例は、分譲業者 (売主業者、事業主、開発業者、デベロッパー)が

別の宅建業者にマンションや宅地の販売分譲業務を委託する場合であり、

これに従事する業者を販売代理業者、代理業者と呼びます。

 

このような取引態様においては、

売主業者と販売代理業者との間で

販売代理委託契約 (もしくは販売代理契約) が締結されます。

 

販売代理業務の範囲としては、

販売広告、営業活動、買主に対する重要事項説明書の交付、

説明 (法35条)、買主との売買契約の締結、

手付金・売買代金の受領、融資手続の取次ぎ、

残代金の決済、登記申請手続の司法書士への取次ぎ、

引渡し等が約定され、また販売代理報酬の額と支払時期、

代理業務の期間、再委託の可否、販売代理の解除事由等も取り決められており、

販売代理業者は売主業者に代わって営業販売から引渡しまでの一連の行為、

手続を受託することになります。

 

販売代理業者は、売主業者の代理人として売買契約を締結する権限を有します。

 

売主業者から販売価格、販売条件等についてあらかじめ指示を受け、

重要事項説明書、売買契約書等の関係書類は

事前に売主業者と協議の上作成したものを使用し、

特別な事情がない限り、

誰を買主にするかについての決定権限まで

包括的に委ねられていることが多いです。

 

本人である売主業者が販売代理業者に求めているのは、

あらかじめ売主の指図した取引条件で、

売主業者のために売主業者に代わって受託物件を販売することであって、

誰と売買契約を締結するかについては、

販売代理業者が自らの判断によって選択を行い、

これに対して責任を負うのが通例と言えます。

 

販売代理は委任であり、販売代理業者は、

本人である売主業者に対し受任者として善管注意義務を負います

(民法643条、644条)。

 

通常は、取引の進捗状況、申込証拠金・手付金の授受、

成約状況等を報告しますが、

買主の属性等について格別な事情があればともかく、

個別に当該買受け希望者と売買契約を締結するかどうかといった

協議をすることは少なく、

月末等の一定の期間ごとに販売状況を報告し、

代理報酬の精算を行っていることが多いです。

 

これに対し、売買仲介においては、

仲介業者は、本人に代わって売買等の契約を締結する権限までは

付与されていません。

 

仲介業者は、委託者の希望・意向等を極力反映させて

成約に至るべく尽力するものの、

契約の成立に向けてこれを委託者に取り次ぐという立場にとどまります。

 

しかし、他方で、仲介と販売代理とは共通しているところが多いです。

 

例えば、1仲介報酬も代理報酬も売買契約が成立してはじめて

請求することができます。

 

ただし、報酬額の最高限度額は異なり、

仲介報酬額は売買価額の3%に6万円を加算した額以内、

代理報酬額は仲介報酬額の2倍以内とします

(報酬告示第二、第三。本書928頁以下)。

 

2 仲介業者も販売代理業者も宅建業者であることから

宅建業法の適用を受け、

媒介契約代理契約書の交付(34条の2、34条の3)、

買主に対する重要事項説明義務 (35条)、

重要な事項の不告知・不実事項の告知の禁止 (47条1号)、

信義誠実義務(31条1項) を負います。

 

3いずれも受託者として委託者本人に対して、

仲介契約、販売代理契約に基づき誠実義務、善管注意義務を負い、

取引の相手方に対しても宅建業者として一定の業務上の注意義務

(取引物件に関する説明義務等)を負います。

 

  • 売買仲介における仲介業者の権限

売主側の仲介業者が取引の相手方である買主に対し、

取引物件の権利関係や物的状態の説明を行うことは

仲介業者としての立場で行う事実行為であって代理行為ではなく、

本人 (売主) に何らかの法律効果を帰属させるものではなく、

仲介業者の行為について直ちに本人に法的な効果が及ぶものではありません

(京都地判平16.4.26 本書556頁)。

 

仲介業者が、売主である委託者の意向や希望を踏まえて、

取引の相手方と条件交渉を行ったとしても、

これは仲立行為であって、

契約当事者の仲に立って契約の成立に向けて尽力する事実行為に過ぎません。

 

売買仲介において、売主側の仲介業者が、

買主が支払う手付金を売主に代わって受領する行為は、

仲介業者が売主から個別に手付金を代理受領する権限を

付与されている場合は格別ですが、

通常は売主の使者としての行為というべきであり、

前記金員を当然に受領する権限を有するものではなく、

仲介業務の遂行上、金員を預かる権限を有しているに過ぎません。

 

  • 賃貸仲介における仲介業者の権限

賃貸仲介では仲介か代理かが曖昧であるとされます。

紛争として多いのは、賃貸マンションの賃貸仲介において、

家主から仲介委託を受けた仲介業者が

客に賃貸物件の現地案内をした後、

“賃貸物件を押さえるため” と称して

契約申込金 (家賃1ヶ月分に相当する額) を預け入れさせ、

家主に代わって受領したところ、

数日後に顧客が賃借意欲をなくして、

仲介業者に対し契約申込金の返還を求める事案があります。

 

仲介業者が家主との間で媒介契約書を交わし、

その契約の内容として顧客から金員を受領する権限を定めておれば

金員受領の意味が明確になりますが、

宅建業法では賃貸仲介において媒介契約書を作成し

委託者に交付することまでは義務づけていないし (本書211頁)、

現実には家主から口頭で

“借主を付ける”ように委託されているに過ぎないのが大部分のようです。

 

このような場合、家主は仲介業者に賃貸借契約を締結する代理権まで

授与する認識であるか否かは個々の事案において異なるでしょう。

 

仲介の委託に過ぎない場合でも仲介業者が、

現地案内、条件交渉を行っている状況下で、

“賃借物件を押さえるため” に契約申込金を預かることは、

賃貸借契約の成立に向けて行う仲介業務に付随した行為

(少なくとも黙示的に受領権限を授与されている)と解すべきでしょう。

 

*建物賃貸借契約の成否と契約申込金

建物賃貸借は、賃借物件の入居に先立って建物賃貸借契約書を締結し、

敷金・礼金、鍵の授受を行うことを予定しており、

この段階に至ってはじめて賃貸借契約締結の合意が

最終的かつ確定的に成立したとみるべきでしょう。

 

それ以前は、賃貸借契約はいまだ成立しておらず、

借主が仲介業者や家主に交付する契約申込金は

賃借物件を確保する目的で預けた金員であって

手付(または予約の手付)にも当たらないことから、

顧客が賃借意欲をなくした場合にはこれを返還すべきでしょう。

 

売買につき本書建物賃貸借においては、

家主が契約調印 (締結) の場に出席せず、

あらかじめ家主が署名した賃貸借契約書を、

仲介業者が借主に届け、

これに借主が署名をすることがほとんどであると述べられています。

 

その際、仲介業者がその名で賃料・敷金を受け取り、

借主に預り証を出すこともあると述べられています。

 

家主は、自己に代わって仲介業者が当該契約書を持参し

借主の署名押印を得て契約を完結させること、

契約締結時に借主から

敷金等の金員が支払われることを認識していることを踏まえると、

家主は、仲介業者に少なくとも契約締結に際して

黙示的に賃料等の代理受領の権限に限って

付与していると解するべきであろうと述べられています。

 

*建物賃貸借に関して、貸主から賃貸仲介を受託した仲介業者を履行補助者に準ずる者として評価し、貸主に契約締結上の過失による損害賠償責任を認めた事案 ( 大阪地判平5.6.18 本書781頁) がありますが、これを一般化することはできず、個々の事案を踏まえて慎重に判断すべきであろうと述べられています。

 

 

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<8月1日>

 不動産仲介業務の現状と課題  仲介と代理(その3)

 

(4) 裁判例

宅建業者の立場が代理か仲介かについて争われたものがある。

 

[売買の代理を認めた事例〕

11 【東京高判昭55. 12. 19判夕438号151頁】

 

〔事案〕

宅建業者X は、Y (ゴルフ場を経営する会社) のために土地所有者との間でゴルフ場用地を買付ける契約を締結した。

YはXに対し、 報酬は、 土地所有者との売買 契約が成立しY が土地の引渡しを受けたときに支払う旨合意した。

Xは、土地買付けにつきY と代理契約を締結したとして代理報酬を請求し、 予備的に商法512条に基づき相当報酬を請求した。

Xが代理人か仲介人か、具体的な報酬の定めがあったかどうかが争われた。 原審はXの請求を一部認容し、Yが控訴し、 Xは附帯控訴した。

 

〔判旨〕

控訴棄却、 附帯控訴に基づき原判決変更、 X の請求棄却。

Xが支払を受けるべき報酬について、他にもXY間に具体的な額ないし算定割合を定める合意があったことを認めるに足りる証拠はなく、結局、 両者の間には、単に報酬を支払う旨の合意があったにとどまるものといわざるをえない。

しかし、商人であるXがその営業の範囲 内においてYのために行為をしたのであるから、XはYに対し商法512条により相当の報酬を請求することができ、その相当の報酬は、本件においては、法令による制限、不動産取引業界の慣行、X の行った買付業務の内容、難易、期間、これに要した労力、費用、取引額その他諸般の事情を斟酌して算定するのが相当である。

本件においては、Yがゴルフ場建設のため一方的に土地の買入れを計画したもので、土地所有者側にはもともと土地売却の意向はなかったのであり、X 代表者Aは、Y側の者として土地買付けの衝にあたり、もっぱらYの利益を図るべく行動し、Xは土地所有者とは利害の対立する立場に立っていたものであること、したがって、売買契約が成立しても、Xが土地所有者から何らかの報酬の支払を受けるなどということはもとより期待しうべくもなかったこと、XはYからおよそ買付単価その他契約の大綱こそ、指示されていたが、個々の買付けにあたっては相当の範囲の裁量権をもって交渉を行い、Yに代わって買受けの意思表示をする権限をも与えられており、現にXと土地所有者との間の売買契約書の調印や代金の支払は、Yの社員が立ち会うこともあったが、X代表者Aないし社員Bだけで行う場合も少なくなかったこと、以上の事実が認められ、右によれば、XはYから本件報酬告示の第一にいう売買の媒介ではなく第二にいう売買の代理を依頼され、これを実行したものと認めるべきである。

 

〔委任状の交付があったが仲介であるとした事例]

2 【東京高判昭57.9.28判時1058号70頁、判夕485号108頁、 金融商事665号41頁】

〔事案)

売主業者Xは、X及びA共有の土地建物を売却するに当たり宅建業者Yに依頼 し、Yを代理人と定めて本件土地建物の売買に関する不動産業務の一切の行為を委任する旨の委任状を交付した。

本件売買にはYのほか仲介業者B が関与し、買主Cとの間で売買契約(代金1350万円) 成立後、XはYに対し、Bに対する仲介手数料名目 46万5000円、Yに対する仲介手数料名目で40万円、 Bの従業員に対する謝礼金名 目で10万円を支払い、 広告宣伝費名目で53万5000円を支払った。

Xは、 Y及びBが受 領できる媒介報酬の合計額は46万5000円を超えることができないとし、超過報酬額と広告宣伝費合計103万5000円の不当利得返還請求をした。

XY関係が代理か媒介かが 争われ、 原審は代理と認定しXの請求を棄却したが、控訴審は、原判決を取消し、X の主張を認め全部認容した。

 

〔判旨〕

Xは、単独で、昭和52年10月9日、宅建業者であるY (Yが宅建業者で あることは、当事者間に争いがない。) との間において、X及びA共有の本件土地建物について、Yが買主を探し、X及びAとCとの間に売買の媒介をして売買契約を成立させた場合に、XはYに対し売買代金額を基準として所定の報酬を支払う旨の宅地建物の売買に関する媒介契約を締結したことを認めることができる (Yが本件土地建 物の売買につき依頼を受けたことは、当事者間に争いがない。)。

もっとも、〈証拠省略》には、Yを代理人と定めて本件土地建物の売買に関する不動産業務の一切の行為を委任する旨の記載があり、原審証人甲及び原審におけるY代表者は、YはX及Aを代理して本件土地建物を売却する事務処理の委任を受けた旨供述している。

しかし、証拠省略》 によれば、一般に宅建業者が不動産の売主または買主の代理人として取引に関与するのは、目的物が遠隔地にある場合、当事者が遠隔地に居住し、契約に立会うことが困難な場合等特にその必要がある場合においてであり、通常は媒介の形式で関与するものであるところ、本件においては、代理人として取引に関与する特段の必要があったと認めるに足りる証拠はないこと、前記委任状はY備付の用紙に従業員である甲が委任文言を書き込んだものであるが、Yは、代理による土地建物の売買の委任を受ける場合も媒介契約を締結する場合も、同一の定型的な委任状の用紙を使用しその間に区別を設けていないと認められること、領収書には「金40万円但し東久留米市下里・・丁目・・土地付建物売買仲介手数料」と記載されていることに照らすと、前記委任状の記載をもって前記認定を左右するには足りない。

また、証拠省略>によれば、Yは、X及びAを代理しCとの間に本件土地建物の売買契約を締結していることが認められるところ (Yが関与してX及びAとCとの間に本件土地建物について売買契約が成立したことは、当事者間に争いがない。)《証拠省略》によれば、右売買契約についてのYの代理行為はXらに無断で行われ、契約成立後はじめてXらに知らされたものであったが、 Xらは、 右売買契約自体の成立を争うつもりはなかったから、あえてこれに異をとなえなかったものと認められるので、前記事実は 前記認定を左右するものではない。

なお、前記領収書のあて名はXとAの両名となっているが、前記委任状にはXが単独で署名押印していること及び 証拠省略》を総合すると、Yとの本件土地建物の売買に関する媒介契約は、Xが単独で締結したものと認めるのが相当であり(媒介契約であれば本件土地建物の共有者の一人であるXが単独で締結することができるが代理契約であれば、共有者全員によって締結されるべきものである。)、 領収書の記載は右媒介の結果成立した売買契約における売主がXとAの両名であったため、甲において誤って両名の名を記載したものと考えられ、右記載があることをもって右媒介契約がX (単独) とYとの間において締結されたことの認 定を妨げるものではない。

二 Yが関与して昭和52年11月中旬ころX及びAを売主としCを買主として本件土地建物について代金1350万円の売買契約が成立したことは、 当事者間に争いがなく、 《証拠省略> によれば、右売買については、Yのほか宅建業者であるBがYの依頼により媒介行為を行ったことを認めることができる。

三本件 報酬告示第一の規定によれば、宅建業者が宅地又は建物の売買の媒介に関し依頼者から受けることのできる報酬の額は、依頼者の一方につき、それぞれ当該売買に係る代金額を区分し、 200万円以下の金額に100分の5 200万円を超え400万円以下の金額に 100分の4400万円を超える金額に100分の3を乗じて得た金額を合計した金額以内 と定められており、また、一個の売買に関して媒介者が数人あり、各媒介者がその数人の関与をあらかじめ承諾しているときは、右媒介者らが受けるべき報酬の合計額は、法定の最高額を超えることができないものと解される。

これを本件についてみると、前記二認定の事実によれば、本件土地建物の売買代金は1350万円であり、またY 及びBは互に本件土地建物の売買について関与することを承諾していたと解されるか ら、本件土地建物の売買の媒介に関しY及びBが受けることのできる報酬額の最高額 が46万5000円となることは、計数上明らかである。

(略) Yが受領した右各金員は、その交付の趣旨に照らし本件土地建物の売買に関し媒介を行った宅建業者に対する報酬の性質を有するものと解すべきところ、右業者が受けることのできる報酬の合計額は前述のように46万5000円を超えることはできないのであるから、 右業者が報酬の最高額を受けることができるかどうかはさておき、少なくとも右額を超える50万円については宅建業者であるYはこれを報酬として受領することはできないものといわなければならない。

そして右50万円について他にYがこれを受領することができる原因を認める証拠はないから、YはXから右50万円を法律上の原因なくして受領し、これによりXは右同額の損失を被ったというべきである。

広告費用請求の可否は本書934頁。

 

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<8月5日>

第3 仲介と情報提供

1 仲介と情報提供

宅地建物の売り情報、 買い情報を提供するだけの行為は、

情報提供行為であり、当事者の間に立って

契約の成立に向けての交渉をあっせんするものでない限り、

仲介には該当しないから、 宅建業法2条2号にいう媒介には当たらない。

 

売買物件や賃貸物件があるとか、

売り手・買い手がいることを知らせる物件情報(不動産情報) の提供は、

単なる情報提供行為にとどまる限り、

指示仲立(紹介仲立、 Nachweismäkler、ドイツ民法652条)と呼ばれる。

 

これに対し、仲介は、仲介業者が物件情報、

つまり取引物件の存在(売り情報)、

物件を探している買い手の存在(買い情報)を入手し、

顧客にこれらを提供するにとどまらず、

仲介業者が売買等の契約の成立に向けて両当事者の間に立って

条件交渉等をあっせん尽力することが仲介の本質的な要素である。

したがって仲介と指示仲立とは区別する必要がある。

 

物件情報の提供とか 「紹介」 と称しながら、

取引物件の存在や売却希望者、

買受け希望者の存在について情報を提供するだけでなく、

自らも現地案内し取 引の相手方との条件交渉、

契約の立会等に関与することは、

当事者の間に立って売買契約の成立に向けてあっせん尽力する行為として、

宅建業法2条2号にいう「媒介をする行為」となる。

その結果、宅地建物取引業の免許を受けない者が

前記のように取引に関与すれば、

無免許営業として宅建業法12条違反となり、

紹介を受けた宅建業者は無免許営業の幇助行為に当たる (無免許営業は本書54頁)。

 

また、宅地建物取引業の免許を受けている宅建業者Aが、

他の宅建業者(売主業者、 販売代理業者) Bが

販売する分譲物件 (宅地建物分譲、マンション分譲等)に顧客を紹介し、

成約ごとに紹介手数料 (名目如何を問わず対 価性を有する金員) を受領する場合、

Aが顧客にBの販売物件の存在、

分譲業者の名称等に関する情報を提供する程度であれば情報提供行為にとどまるが、

Aが顧客をBの販売物件や販売事務所へ案内し、

他の販売物件と比べてAが紹 介する物件の良さ、

立地等を説明して当該販売物件を推奨したり、

取引に不慣れな顧客に口添えしたり助言、指導する行為は、

その具体的な内容によっては情報提供行為の域を越え、

「媒介をする行為」に該当することとなる。

 

この場合、Aは、宅地建物取引業の免許を受けているため

無免許営業違反は当らないものの、「媒介をする行為」に当たるため、

顧客に対し媒介契約書の交付(法 34条の4)、重要事項説明書の交付、

説明 (35条1項) が義務づけられる。

 

2 仲介と立会

 

ア 契約 (取引) の立会とは、

特定の当事者間で一定の事項について

合意がなされた旨の事実を見届けることをいい、不動産取引において、

この目的で売買契約時や代金決済時に立ち会う者を立会人という。

 

さらに、後日、当事者 間で売買契約が締結された事実や

代金の支払いや所有権移転が履行された事実を確認し

これを証するために立会人をつけることがある。

しかし、立会人は、売主に売却権限があるかどうかや

取引物件の権利関係、法令上の制限等を調査、

説明すべき義務を負うものではない(後掲東京地判昭60.9.25)。

 

【東京地判昭60.9.25判夕599号43頁】

〔事案〕

株式会社A (代表取締役 Y1 ) は、売主Bの自称代理人Cから本件不動産を買受け、

買主Xは仲介業者Y2の仲介によりAからこれを買受ける契約を締結した。

の際、Xは弁護士Y 3 に取引立会を依頼し報酬 (10万円)を支払った。

Cが売主本人 に無断でAと売買契約を締結したことが判明し、 Xは所有権移転登記を抹消せざるを 得なかった。

Xは、Y3に対し売主の売却意思の調査義務違反を理由に売買代金相当 額等の損害賠償を請求した。

裁判所はXの請求を棄却した。

Y1、 Y2 に対する損害 賠償請求は本書390頁、 取締役の第三者に対する責任は本書798頁。

〔判旨]

一般に、 契約締結の立会人とは、後日契約締結の事実を証するための証拠とす る目的で契約締結の場に立ち会わせる者をいい、右立会人が弁護士であっても、法律専門家である弁護士であるということに伴って、付随的に契約内容につき法律上の観点から適切な指導助言することが期待されることがあるとしても、立会人としての本質に変わりはなく、契約当事者の代理人あるいは仲介人とは異なり、契約の相手方当事者と自ら交渉したり、契約の目的である権利関係の帰属、内容あるいは契約当事者の権限の有無等を自ら調査したりする義務はないものというべきである。

本件についてみると、前記認定のとおり、Y3 は、本件売買契約の締結のみではなく本件先行売買契約の締結にも立ち会うことを依頼され、本件先行売買契約においてCがBの代 理人として行動していることを知っていたのであるが、Aの代表者であるY1 に対してBに会って本件不動産売却の意思の有無及びCに対する代理権授与の有無を確認するよう指示し、本件先行売買契約締結の際にはCがその代理権を証するものとして提示した本件委任状につきその作成が本人の意思に基づくものであるかどうか説明を求め、また、本件売買契約締結の際にはXの代表者である甲らに対して自分は直接Bに会っていない旨をわざわざ述べ、更に、その後の司法書士事務所における右各売買契約の売買代金授受の際にもCに対して本件売買契約において契約条件の一つとされてD夫妻と即決和解がいまだ成立しないうちに売買代金全額を支払ってしまってよいのかと注意しているのであるから、V3は、本件売買契約につき立会人として期待される指導、助言を一応尽しているものと認めるのが相当である。

Xは、Cの代理行為の態様がいわゆる署名代行の方法によるものであること、Y3はCの代理権限を証する本件委任状が本人であるBの書いたものではないことを認識していたこと及び本件委任状の文言に不備があることをもつて、Y3はBにCの代理権の有無を確認すべきであったと主張するが、立会人にすぎないY3は、前示したとおり、 右のような義務を負うものではないものというべきである。

(略) また、右即決和解を成立させることが本件先行売買契約及び本件売買契約において契約条件の一つとされていたこと、Y3がAから右即決和解の申請手続を依頼されていたこと並びにY3が本件売買契約締結の際X の代表者である甲に対しAから右即決和解の申請手続をとることを依頼されていると述べたことは、前示のとおりであるが、これらの事実が存在することを考慮しても、Y3 は、Xに対する関係では立会人にすぎないのであるから、Xに対し、事前にD夫妻との間に右即決和解応諾の意思の有無を確認すべき注意義務を負う理由はないものというべきである。

したがって、Y3には本件売買契約締結の立会人として尽すべき注意義務に格別の懈怠があるものということはできないから、XのY 3 に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

 

イ不動産取引においては、売買契約書や賃貸借契約書の末尾に売主・買主、

貸主・借主の署名欄に並んで 「立会人」欄を設け、

仲介業者がこれに署名す ることがある。

ただし、「立会人」という表現が曖昧であることから、

最近は「取引業者」、「媒介業者」といった表記に改められつつある

(例えば不動 產適正取引推進機構編「標準売買契約書の解説」 62頁)。

 

取引に関与した仲 介業者が立会人欄に署名することは、

契約当事者が売買契約書記載の条項について合意し

売買契約が成立したことを確認するとともに、

仲介業者として当該取引に関与したことを確認する意味もある。

 

その結果、仲介業者が立会人欄に署名押印した契約書は、

記入されている契約内容が当事者間で合意された事実であることを証する上で

証拠価値を高める資料となると同時に、

仲介業者としての責任の所在を明確にする意味をも併せもつ

(明石・研究211 頁参照)。

 

ウ 売買契約締結に向けて当事者間で取引条件に関する交渉が進められ、

売買契約の基本的な条項(取引物件、 代金、 支払条件、 履行期等) が

ほぼ合意に達した段階で、

正式に売買契約を締結するに当たって当事者の一方または

双方からこれまで取引交渉に関与していない宅建業者に売買契約書の作成、

調印の立会い等を依頼することがある。

 

このような場合、契約当事者は、

どのような売買契約書を締結するとよいのか、

契約締結に当たって事前に調査、確認しておくべき事項があるか、

契約の履行に支障となるものはないか等について、

宅地建物取引の専門家である宅建業者が

取引に関与することによって適切な助言、指導がなされることを期待している。

 

仲介業者の当該売買契約書の作成、立会人欄への記名押印、

仲介報酬相当額の受領等の事実があれば、

単に契約締結の場に立ち会うという行為に止まらず、

当事者の間に立って契約締結をあっせんするものとして

宅建業法2条2号にいう「媒介をする行為」に当たる。

 

そのため、 宅建業者として重要事項説明書の作成、交付、

売買契約書等の書面の交付を義務づけられ (35条1項、37条)、

取引物件の権利関係、法令上の制限等を調査、説明しなければならない。

 

したがって、もっぱら売買等の契約締結の事実を証明するためだけに

当事者の契約の締結の場に立ち会ったものに過ぎず、

仲介報酬等の報酬を受領しなかったとの特別な事情がない限り、

仲介業者は、契約当事者に対し、業務上の一般的注意義務を負うこととなる

(明石ほか 詳解宅建業法156頁 [岡本]、 本書726頁、 後羯宮崎地判昭58, 12.21)。

〔契約締結に立ち会った仲介業者の調査義務が認められなかった事例]

【東京地判昭54.10.30判時946号78頁、 金融商事587号40頁】

 

〔事案) 買主Xが仲介業者数名の仲介により農地を宅地化し転売する目的で本件土地を買い受けたが、市街化調整区域に含まれることから本件土地を宅地化し転売すること が事実上不可能になり、Xは売買契約を合意解除し、売主Y1、仲介者Y2 (非宅建 業者) のほか売買に関与した複数の仲介業者Y3からY6に対し損害賠償請求をした。

仲介業者のうちY6は、売買契約書を作成し、同書上ではY6のみが仲介人として表示された。

事案と法令上の制限の調査義務は本書449頁。

 

〔判旨] Y6に対する請求棄却。 Y6 の代表者は、 Xに対し本件土地を紹介したけれども、その後間もなくXに助言していったんは本件土地の買い入れを断念させており、その後、Xが改めてY1との間で売買契約を締結することについて何らの仲介行為を 行っていない。

ただ、契約の締結にあたり、Xの依頼により主として契約文書の作成のため立ち会ったに過ぎないことが認められるから、結局、Y6 は、本件売買契約書 上での表示にもかかわらず、Xが本件土地を最終的に買い受けるにあたり、もはや仲介人としての責任を負うべき立場にはなかったものといわなければならない。

したがって、Y6としては、本件土地が市街化調整区域内に含まれる可能性があるか否かについて調査し、Xに説明するまでの義務がなかったものと解せざるを得ないから、Y6がXに対しその旨を告げなかったとしても過失があったということはできない。

(他人の土地の売却に立ち会った仲介業者の調査義務違反が認められた事例〕 2 【宮崎地判昭58. 12. 21判夕528号248頁】

仲介業者Y2 は、本件土地の売買契約は既に売主Y1、買主X間で話合が成立した後 に、売買契約書を作成するために形式的に仲介契約をしただけであり、実質上の仲介契約がないから仲介業者としての責任がない旨主張した事案において、裁判所は、 Y2 は自ら売買契約書の仲介業者、取引主任者欄に署名捺印した上、仲介料の支払いを受けているのであり、これによって仲介契約の成立が認められるから、これが実質上の仲介契約でないとはいえないし、たとえ既に売買の話合いがほぼ成立した後に立会人的立場で仲介として署名捺印したものであっても、業者の介入に信頼して取引するに至った第三者Xに対しては信義誠実を旨とし、権利者の真偽につき格別に注意する等の業務上の一般的注意義務があるから仲介業者としての調査、確認義務に径庭がないというべきであって、Y2の右主張は失当である (最判昭36.5.26民集15巻5号1440頁参照)。

委託者以外の第三者に対する注意義務は本書330頁、 事案と判旨は本書375頁。

 

3 競売物件の紹介

仲介業者が裁判所における競売手続進行中の宅地建物 (競売物件) を紹介、

現地案内、物件説明、 買受け手続の助言等して

買受けさせるためにあっせん尽力することを、

競売物件の“仲介” と呼ぶことがある。

 

しかし、これは売主と 買主間の取引条件の交渉、

調整を不可欠の要素とする不動産仲介とは性質を異にする。

 

競売手続は、 抵当権者等からの競売申立てにより、

裁判所が民事執行 法に基づいて売却手続を進め (同法180条以下)、

売却価額を決定し (同法60条 1項)、

期間入札の場合であれば一定の期間を定めて買受け希望者が入札して、

最高価買受人に売却許可決定がなされる (同法69条)。

 

競合する買受け希望者がいる場合は、

入札の結果、最高買受人に裁判所が売却許可決定をするのであって、

誰が買受けるかは開札期日までわからない。

 

つまり、 仲介業者が買受け 希望者のために裁判所との間に立って

価格や買受け条件を交渉・調整する余地 は全くない。

このような行為は仲介ではなく、

競売物件の紹介、調査、買受け 手続の指導、助言という

競売物件の買受け代行業務であり、 宅建業法による規 制の対象外となる。

 

* 競売物件は、これまで競売プローカーしか取り扱わない “事件物” というマイナス・ イメージがつきまとっていたが、 民事執行法の改正 (期間入札の導入等)を機に徐々に一般人による競売物件の買受けがなされるようになった。

競売物件は中古物件の市 場価格(いわゆる実勢価格)に比べて売却価額が低いこと、 住宅ローンの買受けも制度上整備されるようになったこと(民事執行法82条2項) も一般人の買受けを促進し ている要因であると考えられる。

他方で強制競売は物件明細書が閲覧に供される(同 法62条)が、重要事項説明書 (宅建業法35条) のような詳細なものではなく、所有者から隣地との境界の指示説明を受けることは期待できない等、入札前に買受け希望者が競売物件の内部を見分することもほとんどできない。

民事執行法改正により内覧制度が設けられたが (民事執行法64条の2)、どこまで機能するかはいまだ不明である。

賃借人や不法占拠者が競売物件を占有している場合は買受人が買受け後に引渡命令手 続をとらなければならない (同法83条)等、競売物件の買受けには高いリスクがあ る。

競売物件の買受けの代行として宅建業者が関与し仲介報酬相当額を得ている例もあるようだが、買受人に前記リスクを事前に十分説明しないままに買受け手続を代行し買受人が不測の損害を被って紛争に発展している例もみられる。

【岡山地判昭54. 9.27下民集30巻 9~12号437頁、 判時959号117頁、 判夕407号100頁、 金

融商事595号42頁】

〔事案〕 仲介業者X は、Yに競売物件を紹介し、登記簿謄本の取り寄せ、下見の上執行官に境界確認までして、Yを現地案内し、競売手続の説明をしてYに本件競売物件を買い受けさせた後、XはYに対し報酬告示の最高額を請求した。

〔判旨] 原判決変更、一部認容。仲介契約とは、他人間の不動産売買等の法律行為の媒介、すなわち取引締結の機会を作り、またはその成立の促進、あっせんをすることを目的とし、受託者は、媒介を依頼されて取引契約の成立に尽力する義務を負い、委託者は、契約の成立に対して報酬を支払うという契約であり民事仲立と解される。

競売による物件取得の過程においては、競売開始決定後、競売期日とともにその不動産の告示、最低競売価額等を記載した公告がなされ、誰でも競売物件の存在、競落取得価額の一応の目安を知ることができる建前になっており、競落希望者は競売手続に参加して最高競売価額を申出れば競落することができ、その間には手続の性質上私人間の普通売買のように売主側と価額等の諸条件の交渉をする仲立の余地がない。

委託者に競売物件を競落取得させるために尽力し、その結果受託者が報酬請求権を取得するためには、仲介契約とは別個の契約、すなわち競売物件の情報提供、物件調査、案内ないし競売手続の補佐あるいは受任等を目的とし、その報酬支払を約する契約の成立が必要である。

Xの通常の仲介契約に基づく報酬請求権は主張自体失当であるが、仲介契約とは別個の前記契約をも主張しているものと解し、Yが競売物件である本件宅地建物の案内を希望し、X がこれを承諾してYを現地に案内し、説明をなした時点にお いて仲介契約に付随するがこれとは別個の契約として、両名間に競売物件の情報提供、物件調査ないし案内を目的とする準委任契約が成立したものと認めることができる。

報酬についての合意を認めるに足る証拠はないものの、 商法512条に基づき、Xは、 右契約の履行が競落に寄与した割合によりYに対し相当額の報酬を請求することができる。

右報酬額は、報酬告示によるべきものではなく、準委任契約の履行に要する労力、知識に相応するものであるべきところ、Xは、本件宅地建物の登記簿謄本を取り寄せ、これを下見し境界まで調査したうえYを現地に案内し本件宅地建物内外を見分させて紹介し、かつ競売手続の説明をしたのであるから右報酬額は、本件物件についての情報の価値、案内や説明に要した労力、費用等競落のために寄与した諸般の事情を考慮して金3万円を下らない。

 

4 契約解除の仲介

第2章 不動産仲介契約 111

宅建業者が賃貸借契約の成立に向けてではなく、その契約の解消 (立退き交渉等)に向けて借主と交渉、尽力することがある。

この場合にも、解約合意の 成約という点に着目すれば、仲介に当たると解する余地もあろう。

しかし、宅建業法の制定目的、免許制度の趣旨、 宅地建物取引業(仲介業も含めて)に対する業務規制 (35条、 37条等) に鑑みると、宅建業法にいう媒介(仲介)は、当事者間の売買・賃貸借等の契約の成立に向けてあっせん尽力する行為であって、売買・賃貸借契約の解約合意の成立に向けてあっせん尽力する行為は含まれないと解すべきである。

商法の仲立営業である商行為の媒介も契約解消の仲立は含まない。

なお、建物賃貸借契約の解消を目的とする媒介の結果生じた債権が宅建業法64条の8第1項にいう「宅地建物取引によって生じた債権」に該当するかどうかが争われた事案で、傍論ながら、契約の解消が媒介に該当するとした後掲東京地判平元。

11. 27があるが疑問がある。

【東京地判平元。 11. 27判時1359号85頁、 判夕737号226頁】

〔事案〕 建物所有者Aは賃借人Bに店舗を賃貸しBはこれをCに転貸していた。

宅建業者Dは、Aから、AB間の賃貸借契約解消について媒介の委託を受けBと交渉をしたが解約の合意は成立しなかった。

Dは、Aから建物を買受けCと交渉し建物の明渡しを受けた上でこれをEに売却しEは建物を取り壊した。

Bは、建物賃借権の消滅がD の不法行為によるものであるとして、Dに対し損害賠償を請求し一部認容する判決 (450万円)を得た上でBの相続人Xが、宅地建物取引業保証協会 Yに損害賠償請求権 について弁済対象債権の認証の申出をした。

Yがこれを拒否したため、XはYに対し 認証請求訴訟を提起した。

BのDに対する損害賠償請求権が「その取引により生じた 債権」(宅建業法64条の8第1項)に該当するかどうかが争われた。

〔判旨) 請求棄却。

貸借の解約の媒介をすることは、貸借の媒介に含まれ、これに関して債権を取得した者は、弁済業務保証金の弁済を受けることができる。

宅建業者がその所有する宅地建物を他に売買するに当たり、当該宅地建物に係る貸借権等を消滅させるために対価の支払を合意した場合において、右合意の相手方である貸借権者等は、宅地建物の売買に関して債権を取得した者として、弁済を受けることができる。

Dは、転借人との間に明渡しの合意を成立させたものの、賃借人Bとの間では明渡し の合意に至らず、Bは、Dによる本件店舗の質の解約の媒介によって債権を取得し たものということができず、また、所有権を取得し、Aの地位を承継したDが本件建物をEに売却するに当たっても、賃借権の消滅に関して合意が成立しておらず、宅地建物の売買により債権を取得したものということはできない。

BのDに対する債権は 「その取引により生じた債権」に当たるものと解することはできない。

 

参考文献:国立国会図書館 「不動産取引における仲介」より