不動産媒介契約とは何か(その6)

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紛争事例 

―― 買主の専属専任媒介業者が売主からも報酬を受領 ――

 

【事案】

買主Xが専属専任媒介業者Yに対し、

破産管財物件を指定し売買代金額の予算を伝えたうえで、

売主である破産管財人Aとの購入媒介を依頼した。

 

 

Yは、契約交渉の中でAからも売却媒介による

報酬を受ける了解を取り付けたことをXに伏せ、

事前相談もなくXの予算を超える買付価格で価格交渉し、

Xはやむなくその価格で売買契約を締結した。

 

Yは売主・買主の双方から媒介報酬を受領した。

 

XはYに対し媒介契約の債務不履行(誠実義務違反)に基づき

媒介報酬相当額を含めて損害賠償請求した。 

 

― 事案要約 ―

買主Xが専属専任媒介業者Yに、

破産管財物件を指定し売買代金額の予算を伝えて、

破産管財人Aとの売買の媒介を頼みました。

 

しかし、業者YはAからも報酬を受けることを了解しておきながら、

それを買主Xに伝えずに高い価格で交渉し、

Xはそれに同意して売買契約を結びました。

 

Yは売主と買主の双方から報酬を受け取りました。

 

その後、買主Xは業者Yに対して、

契約に対する義務違反があったとして、

媒介報酬相当額を含む損害賠償を求めました。

 

【判旨】

(1) 宅建業者は、不動産仲介を委託した依頼者に対し、

信義を旨とし、誠実にその業務を行う誠実義務を負う

(宅建業法31条参照)。

 

他方、宅建業者は、宅建業法上、

不動産売買の売主と買主の双方から、

仲介を受けて報酬を受け取ること自体は禁止されてはいない。

 

これは、通常の不動産仲介契約においては、

宅建業者に契約成立のために積極的に努力する義務

(いわゆる奔走義務)はなく、

依頼者も仲介された物件を随意に断ることができ、

仲介された物件について双方が気に入って

取引が成立することによって仲介が成就し、

そのとき報酬請求権が発生する関係にあるから、

宅建業者が公平な立場に立って

双方の仲介ができる状況にあることを理由にするものと解される。

 

(2) 宅建業者であるYがXから、

本件不動産の買受仲介を依頼され、

本件不動産について

拘束力の強い専属専任媒介契約を締結したといった

事情のある場合には、Yは、依頼者のために、

本件不動産をできるだけ有利な価格で取得できるように

積極的に努力する義務を負担する。

 

宅建業者がこのような義務を負担する事情のある場合には、

宅建業者が公正な立場に立って

双方を仲介することは困難であるから、

依頼者に対して、相手方のために仲介活動を行い、

相手方から報酬を受け取ることを説明し、

委託者の同意を得ない限り、

仲介の依頼を受けた宅建業者が、

同時に相手方のために仲介活動を行い、

相手方から報酬の支払を受けることは、

依頼者に対する誠実義務に違反する債務不履行にあたる。

 

(3) Yは、本件仲介契約に基づき、

相手方である売主のために仲介行為をしてはならない

誠実義務(債務)を負担していたにもかかわらず、

依頼者であるXの同意を得ることなく、

Aのために仲介をし、

仲介報酬693万円の支払いを受ける旨の合意をする

誠実義務違反行為 (債務不履行)を行い、これにより、

Xに対し、Yが受け取る仲介報酬693万円に充てられる

売買代金を支払う損害を生じさせた

(誠実義務に違反する仲介報酬に充てる代金を

負担させられたこと自体が損害と認められるし、

YのAのための仲介行為は誠実義務に違反するものであり、

Yの仲介報酬は配当の原資となることを予定されていなかったから、

Yへ支払われた報酬額に相当する売買代金額を

交渉により減額することはできたと推認できる) と認められるから、

Y は、Xに対して、

債務不履行による693万円の損害賠償債務を負担する。

 

請求一部認容 (広島高判平22.9.17)。

 

 

― 判旨要約 ―

 

(1) 宅建業者は、

不動産仲介を依頼された際に信義を旨として

誠実に業務を行う誠実義務を負います。

 

しかし、通常の不動産仲介契約においては、

契約成立のための積極的な努力が求められず、

仲介物件について双方が合意すれば報酬が発生する仕組みです。

 

したがって、宅建業者は双方の利益を害することなく

公平に仲介ができる状況があるとされています。

 

(2) 宅建業者が専属専任媒介契約に基づき

依頼者から本件不動産の取得仲介を頼まれた場合、

業者は依頼者のために有利な価格で取得するように

努力する義務があります。

 

この場合、業者が双方を公正に仲介することは難しいため、

相手方(売主)のためにも仲介活動を行い、

報酬を受け取ることを説明し、

依頼者の同意を得なければなりません。

 

依頼者の同意なしに相手方のために仲介活動を行い、

報酬を受け取ることは、

依頼者に対する誠実義務違反となり、債務不履行に当たります。

 

(3) 宅建業者は、専属専任媒介契約に基づいて

買主から依頼されたにもかかわらず、

売主のために仲介行為をして誠実義務に違反しました。

 

宅建業者は買主の同意を得ずに売主と仲介報酬の合意をし、

その報酬を受け取りました。

 

これにより、買主は宅建業者Yが受け取る仲介報酬に相当する金額が

加算されて売買代金を支払うことになり、

693万円の損害が生じました。

 

宅建業者Yが売主Aのために行った仲介行為は

誠実義務に違反するものであり、

宅建業者Yの報酬は売買代金の支払い源には含まれていなかったため、

宅建業者Yへ支払われた報酬を

売買代金から減額することが可能であったと考えられます。

 

したがって、宅建業者Yは買主Xに対して

693万円の損害賠償責任を負うとされました。

(広島高等裁判所平成22年9月17日判決)

 

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◆双方媒介に関する依頼者に対する説明義務 

公平な立場で媒介を行うためには、

両当事者が、媒介業者の立場を理解していることが必要です。

 

媒介業者は、両当事者の間に立って、

公平にその利益を図りながら、

契約成立に向けて尽力をすることについて、

両当事者に対し十分に説明し、理解を得なければなりません。

 

媒介業者は、当初、売主だけから媒介の依頼を受け、

売主も自己のために媒介活動をするであろうことを

期待・信頼して媒介を依頼しています。

 

したがって、 当初の依頼者の利益を図り、

できるだけ有利な条件で売却するよう媒介活動を行うことが、

売主の媒介委託の本旨であります。

 

媒介業者が取引の相手方である買主との交渉過程の中で、

買主からも媒介を引き受けることは、

利害対立する売買取引の相手方から

同時に媒介を引き受けるものであり、

当初の依頼者に対する関係で誠実義務(忠実義務)、

善管注意義務に反するおそれがあります。

 

相手方から媒介の依頼を打診された媒介業者は、

速やかに、当初の依頼者に対し、

そのような経緯について報告・説明し、

特に相手方からも媒介報酬を

受領することの同意を得ておく必要があります。

 

 

参考文献:国立国会図書館 「不動産媒介契約の要点解説」より

 

 

 

筆者:大脇和彦プロフィール

愛媛県松山市生まれ
マンションデベロッパー、会計事務所を歴して独立
不動産コンサルティングとエージェント業務が主体。近年は太陽光発電所開発運営も
趣味は、土地巡り・街巡り・山巡りを兼ねたドライブ(得意笑)、筋トレ(昔はオタク)
好きなこと言葉・・・積小為大、虚心坦懐